10/18の日記

15:44
No.5-ポケモンの権威、オーキド博士(2)
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ユウキの真剣な表情にゴールドは無意識の内に歩みを止める。
「ごめん、オレ嘘ついてたよ」
「だからバレバレだったって」
ユウキの真剣な呟きにツッコミを入れるも、その先に続く彼の言葉をゴールドは静かに待つ。
「オレも確信は持てないんだけど、確かにトワには少し人と違った特別な何かがあると思う」
「特別な何かって…、お前やっぱり見たことあるんだな?」
ゴールドの問いかけにユウキは素直に頷いた。ゴールドは自分の考えに確信を求めるように、それの具体的な様子をユウキに尋ねる。だがユウキはそれ以上話そうとはしなかった。
「悪い、クチートのこと話してくれたのに…。けどトワはあんましそういうの好きじゃないし、オレもトワのこと守るって決めてあるから…」
そう呟くユウキを、ゴールドは首を横に振って遮った。
「いや、俺こそ悪かった。ユウキやお嬢ちゃんにもそれぞれ事情があるのにな」
ゴールドはそう言うと、グラエナを促して元気に歩き出した。ユウキはその後ろ姿に慌てて声をかける。
「ゴールド、トワは悪いヤツなんかじゃない!それはオレが絶対に保証する!!だからその…、トワにあんまり素性とか聞かないでほしいんだ…」
ユウキの声にゴールドは振り向くと、優しく微笑んだ。
「当たり前だ。そんな野暮なことしねぇよ」
ゴールドの言葉にユウキは安堵の息を吐いた。そんなユウキにゴールドが明るく声をかける。
「ほら、早くオーキド博士を見つけるぞ!あ〜、なんか予想外に時間喰っちまったぜ」
その時、地面の匂いを探していたグラエナがふと顔を上げた。ユウキはすぐそれに気づく。
「どうした、グラエナ?」
一瞬ユウキとゴールドに振り向いてひとつ唸るが、すぐ目の前の草むらに顔を戻す。するとその方向の遠くからポケモンの声が聞こえてきた。
「エイたろうの声だ!!」
ゴールドはその声の方向に向かって、大声でそのポケモンの名前を呼ぶ。
しばらくすると、木の枝を伝ってエテボーズが姿を現した。エテボーズはゴールドの足元に見事な着地を決める。
「オーキド博士は見つかったか!?」
するとエテボーズはゴールドに小さなメモ用紙を差し出した。ゴールドはそれを急いで開く。
メモには急ぐような殴り書きでこう記してあった。
『クチートの状態がわからんので、先に研究所で診断の準備をしておく。急いでクチートを連れてくるんじゃ!!』
ユウキ達もゴールドの後ろからそれを覗き見る。
「ユウキ、急いでお嬢ちゃんの所に戻るぞ!!」
ゴールドはメモ用紙を白衣のポケットにねじ込んだ。ユウキも急いでユキメノコをボールに戻す。
「グラエナ、頼む!!」
「ガゥ!!」
ゴールドとユウキ達は180度回転すると、元来た道を駆け出した。



ユウキ達が見えなくなってから15分ほど経っただろうか。
安静にしてはいるものの、クチートの容態は落ち着く気配すら見せない。トワはただ必死にクチートを励まし続けていた。
「頑張って、クチート。もう少しでゴールドさん達がオーキド博士を連れてきてくれるから…!」
しかしそれ以外何も力になれない自分がどうしようもなく悔しい。用心棒を任されたガブリアスとニョロトノも焦った表情でクチートを見守る。
だがその時、森の奥から草を掻き分ける音が微かに聞こえてきた。全員の視線が一斉にそちらへ集中する。しばらくすると話し声も微かに聞こえてきた。
(ユウキが帰ってきた!!)
トワの心にどっと安堵感が満ちる。トワは草むらへ駆け寄ろうとするが、はたと体を停止させた。
よく聞こえないが、明らかにユウキの声ではない。ゴールドの声にも聞こえない。
トワは慌ててガブリアスとニョロトノを反対側の草むらへと急かす。ユウキ達が帰ってきたのだとばかり思っていた二匹はトワの行動に困惑するが、彼女の言う通り草むらの奥に身を潜めた。運良く背の高い草むらがあったため、横になればガブリアスの巨体もすっぽりだ。トワも二匹の隣に身を潜め、息を殺して向こう側の草むらを凝視する。
だんだんと声がハッキリしてきた。二匹もトワの様子がおかしかった理由を理解したようで、彼らに緊張が走るのがトワにもわかった。
「なあ、本当にここを通るのか?」
あれ、なんか聞き覚えのある声…?
「道はこれしかないですからね」
そして草むらから2つの人影が姿を現した。
「!!」
それを見るなりトワは思わず息を止める。
あの白いスーツと羽のようなマフラーをどう忘れろと言うのか。
草むらから出てきたのはトワを追うスカイ団、イスミとツマブキであった。
その姿にガブリアスも一気に緊張を高め、何も知らないニョロトノはガブリアスに事情を説明されて厳しい顔つきでそれを見守る。
「けどずっと出口で待ってても来ねえし、こうやって探し回ってもいねえってことは…やっぱりいねえんじゃねえの?」
ツマブキが首を回しながら疲れた声で呟く。
(出口で待ってた?この人達待ち伏せしてたの…?)
「彼女の身長や歩幅からいって必ず成功すると思ったのですが…、予想外でしたね。もしかしたらこれを見越して先を急いだのかもしれません」
イスミは実に難しい顔をして唸る。まさか彼もこんな近くにお求めのご本人がいるとは夢にも思っていないようだ。
トワは何となく気まずい面持ちでそれを見守る。
「だったら早くアサドタウンに行かねえと!そこから先は道が分かれちまうんだろ!?」
「ええ、急ぎましょう」
するとスカイ団はアサドタウンの方向へと小走りに駆けていってしまった。突如として緊迫した空気が解け、トワ達は安堵の息を吐く。
だがその時だった。
「いでッ!!」
スカイ団が出てきた草むらの奥から突然、派手な音と少年の短い悲鳴が聞こえてきた。
スカイ団が反射的にそちらへ顔を向ける。
(ユウキ…!?)
トワは再び息を詰まらせる。ユウキの姿は見えない。きっと転んで倒れているのだろう。だが一緒にいるはずのゴールドの姿がない。
トワ達に再び緊張が走る。
(お願い、気づかないで…!!)
だがトワの願いも虚しく、スカイ団の足取りは完全に止まってしまった。
「…さっきの声、あのクソガキの声に似てなかったか?」
「ツマブキもそう思いましたか?実は私もです」
二人の意見が合致したことで確信を得たのか、スカイ団は180度反転し草むらへとゆっくり歩み始めた。トワの額に冷や汗が伝う。
すると何を思ったのか、ニョロトノが草むらから飛び出していってしまった。
思わずトワは呼び止めようとするが、とっさに自分の口を押さえる。
「ニョ、ニョロトノ!?」
突然のニョロトノの出現に、スカイ団の意識は完全に草むらから逸れてしまった。トワ達の表情が一気に明るくなる。
スカイ団はモンスターボールを取り出して臨戦態勢に入った。
(大変、ニョロトノが…!!)
思わず飛び出そうとしたその時、ユウキのいる草むらから誰かが飛び出してきた。
「ニョたろう、こんな所にいたのか!!」
飛び出してきたのはユウキではなくゴールドだった。ユウキの姿は見えない。ニョロトノも思いがけないゴールドの登場に驚く。ゴールドはそのままニョロトノに抱きついてきた。
「急にいなくなりやがって!心配したんだぞ〜!!」
ゴールドの言葉にトワ達は首を傾げるが、もちろんこれはゴールドの演技である。ニョロトノも即座に機転を利かせてゴールドの演技に合わせる。
するとゴールドがスカイ団へと向かって、むしろ怪しいくらいのオーバーなリアクションで大声をあげた。
「な、スカイ団!!なんでこんな所に!?」
イスミは軽く舌打ちをする。
「これ以上騒がしくなると面倒ですね」
そして、そのままバトルに入りそうになっているツマブキを制する。
「ツマブキ、戦っている暇はありません。行きますよ」
「わ、わかってる。おい、今回は見逃してやる、覚えてろよ!!」
そう捨て台詞を吐いて、スカイ団はすぐさまその場を去っていってしまった。
「ゴールドさん!!」
スカイ団が消えたことを確認して、トワ達は草むらから飛び出した。
ゴールドはトワ達の予想外な登場に驚きの声をあげるが、すぐに彼女達に駆け寄る。
「そこにいたのか、大丈夫だったか?」
「はい、クチートも無事です。あの、ユウキは…」
トワは不安げな表情を向ける。するとユウキが草むらから姿を現した。「うわァ、すっごい土…」と腹中に付いた土を叩き落とす。
「大丈夫だった、ユウキ?」
駆け寄ってきたトワとガブリアスに、ユウキは明るく笑いかける。
「ああ、ゴールドとニョロトノのお陰だよ」
何でも、スカイ団に気づいて飛び出そうとしたユウキをグラエナが止めたのだが、その時ユウキが足を引っ掛けて転んでしまったのだとか。その後は偶然出てきたニョロトノに合わせてゴールドの咄嗟の機転で難を逃れたわけである。
「お前が慌てなけりゃそのまま済んだのに…」
「け、結果オーライだったんだからいいだろ!?」
呆れたように呟くゴールドに言い返しながら、ユウキはガブリアスをボールに戻した。
少し前まで仲の悪かった二人なのに…、とトワは微笑む。
更なる友情を深めたいところだが、今はそんな余裕はない。
「オーキド博士がアサドタウンの研究所で診断の準備をしてるから、もう大丈夫だ」
ゴールドはトワからクチートを受け取りながら礼を述べる。
「二人とも、ここまで付き合ってくれてありがとな。すげぇ助かったよ」
だがそんなゴールドの言葉に二人は首を傾げる。
「何言ってんだよ、ゴールド。研究所行くんだろ?早く行くぞ!」
「で、でもお前ら…」
困惑するゴールドにトワが笑いかける。
「私達もアサドタウンに向かう途中だったんです。それに、このままクチートを放ってなんか行けませんよ」
そういうことだ、とユウキとグラエナも頷く。
始めは呆気に取られていたゴールドだったが、次第に笑顔が戻ってきた。
「へっ、物好きな奴らだぜ」
そして嬉しそうにそんなことをぼやいてみせた。
「じゃあ早速付き合ってもらうぞ!」
ゴールドはそう言うと、何を思ったかズカズカと草むらの中に入り始めた。ユウキ達は予想外なゴールドの行動に慌てる。
「草むらを突っ切ったほうが早く着くんだよ!ユウキ、野生ポケモンは任せたぞ!!」
ユウキはそれに元気良く答えた。
「了解!!」


草むらに入ってしばらく行くと、早速野生のジグザグマが姿を現した。
グラエナがひらりと前に躍り出る。ユウキも準備は万端だ。トワも応援するために少し前に出る。
だが予想外なことが起こったのだ。
トワが声援を送るために姿を現した途端、ジグザグマが急に敵対意識を無くしてそのまま道を譲るように戦闘を離脱してしまったのだ。
最初はただの偶然だと思っていたが、それが二回、三回と続くので、ゴールドも調子に乗って「ユウキよりお嬢ちゃんのほうが役にたってるぞ!」とユウキをからかっていた。
だがゴールドは前のようにトワの不思議な力について執拗に尋ねてはこなかった。
(ユウキが何か言ってくれたんだろうな…)
とにかくトワにとってはとても有り難いことだった。
しばらくすると草むらもなくなり、舗装道路に出た。そしてゴールドがその先を指差す。
「お、見ろよ!着いたぜ!!」
小さな看板のその奥に、木製の柵に囲まれた小さな村が見えてきた。看板には『古き良き所、アサドタウン』とある。
足を踏み入れると、途端に周りの雰囲気が一変した。まさに田舎生活をするにはとっておきの場所だろう。
小さな家が点々と並び、川の側にある家には水車が付いている。色とりどりの花が咲き乱れ、その香りに誘われて飛び回るミツハニーも、柵の中で昼寝をしているミルタンク達も幸せそうだ。
思わずトワは感嘆の声をあげる。
結局自分の出番なしでアサドタウンに着いてしまったのが多少なりとも悔しかったユウキだったが、三年振りの懐かしい村の様子にどうでも良くなったようだ。
「おい、こっちこっち」
村に見とれていた二人にゴールドは手招きをする。
研究所は割と村の入り口付近に建っていた。
研究所のドアの前に誰かが立っている。
「博士!!」
その人物を見るや否やゴールドは駆け出した。





(3)へ続く⇒

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