長編
□愛玩DOLL1
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「明日か…行くのは…」
明日、周瑜は外交のため魏へと発つ事になっていた。準備を終えた周瑜の部屋に孫策が訪れた。
「伯符か。…ああもう仕度も済んだ」
入って来た孫策にそう笑いかけて周瑜は側まで歩み寄った。
抱き締めようと手を伸ばされた腕に大人しく抱かれる。
「なるべく早く帰ってこいよ」
そう言う孫策の顔があまりにも真剣だったので、周瑜は思わず苦笑した。
「ああ、できるだけな」
それから数日後、周瑜はまだ慣れぬ空を見上げていた。
「周瑜殿、ここにおられましたか…」
足早に近づいてくる人物に周瑜は目を向けた。
ここに来てから日々よくしてくれる郭嘉だ。
「郭嘉殿、どうかなさいましたか?」
「これから議会を始めますので迎えに来ました」
人の良い笑顔を浮かべて郭嘉はそう言った。
「そうですか。ありがとうございす」
一言お礼を行って郭嘉の後についていく。
「やはり恋しいですか?国が…」
「そうですね…。仲間もいますし…」
そう答えて周瑜はまた空に視線を移した。
「…あなたの瞳はもっと大切な何かを見ているように思えますが…」
少しだけ周瑜の方を見て郭嘉は呟く。
「え?」
それがよく聞き取れなくて周瑜は聞き返したが返って来たのは微かな笑いだけだった。
会議に出て、一通り仕事を終えると周瑜は与えられた部屋で書簡を読み耽っていた。
そしてふと、積まれた書簡の山を見てある事を思い出した。
よく、目の前に積まれた書簡の山に小さな文句をつけてはさぼる事ばかりを考えていた彼。そうして大きくなる一方の山に最終的には見張りまでつけられ、書簡と奮闘していた。
そして、だから日頃やってしまった方がいいと散々言った自分にまるで子供のようにふて腐れたそんな姿を…
「伯符は、ちゃんとやっているだろうか…」
ぽつりと呟いてから少し置いて、周瑜は頭を振った。
あいつもそんな子供じゃないか…
口元に笑みを浮かべて、ちらっと窓を見ると周瑜はまた書簡に目を移した。
その頃、呉では…
「全く周瑜が居ないと気が抜けたようですな、兄上」
職務室の窓に肘をついてぼーっとしていた孫策に孫権が声をかけた。
「んだよ権…。うるせーなー」
「これを早くやってしまわないと帰って来た時怒られますよ」
「んだよお前まで…」
ぶつぶつ言いながらふて腐れた顔で孫策は書簡に向かう。
こんな事してたらまたあいつに小言を言われるな…と遠い地に居る周瑜を想った…
こんこんと戸を叩く音がして周瑜は戸を開けた。
「読書中でしたか?これは失礼」
入って来たのは長身の顔立ちの調った男だ。
「いえいいですよ。確か張コウ殿でしたよね」
「覚えていてくれたのですか。それは光栄ですね」
張コウは優雅な足取りで周瑜に近づいて来ると、周瑜の髪を掬い上げた。
「何かご用ですか?」
軽く身じろぎをするように張コウから離れて周瑜は問い掛けた。
「いえ、特に用はないのですが、ただこうしてあなたと会ってみたかっただけです」
妙に上機嫌に張コウはそう言った。
「……そうですか」
何て答えていいかわからずに周瑜は曖昧な笑顔を見せた。
「しかし今日はあまり時間がないのでこれで失礼しますね」
もう一度、周瑜の髪を触ると張コウは部屋を出て行った。