長編

□愛玩DOLL4
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 冷たい視線が体を射抜く。あの悪夢の夜に感じたまるで氷のような…

「周瑜殿…。良かった気がついて…」
 薄く目を開けた周瑜の視界にぼんやりと人影が映る。
 近づく気配にふとあの悪夢が蘇り、目の前の人影を押し退けようと体を起こせばその体が優しく抱き締められた。
「すみませんでした」
 まだ重い痛む体で何とか逃れようとする周瑜の耳に申し訳なさそうな声が聞こえた。
「郭嘉殿…?」
 聞き覚えのある響きに少しだけ体の力が抜けた。
「あのような事になるなんて思わなくて…、殿の手前助ける事もできず…」
 申し訳なさそうな声と抱き締める腕の優しさに、自然と体の力が抜けそのまますがるように郭嘉の背中に腕を回した。
 無性に恐ろしくなって少し震えているのが自分でもわかった。
「今日は休んでいてください。ずっとこうしていますから…」
 そして郭嘉の腕に抱かれ、周瑜は眠りについていた。
 気がつけば眩しい朝日が差し込む寝台に寝かされていた。
「……伯符…?」
 暖かい腕の記憶にぽつりと呟き、辺りを見回してはっと気がついた。
 そうだ…、魏に来ていたのだったな…
 ふと視界が滲んだ。無性に彼に会いたくなった。あの腕に包まれれば全ての汚れが消えるだろうに…。
「伯符…」
 もう一度呟いてぎゅっと体を抱き締めた。
 その時、扉を叩く音のすぐ後に扉が開き周瑜は慌てて目元を拭った。
「すみません。起きているとは思わなくて…」
「いえ、構いません」
 申し訳なさそうな顔をする郭嘉に周瑜は何とか笑顔を取り繕った。
「……泣いていたのですか?」
 近付いて来た郭嘉がそっと周瑜の目元に触れる。
 気まずいそうにその手を振りほどくよう俯く周瑜の頭を郭嘉は抱き締めた。
「…私はいつ帰れるのでしょうか?」
 ぽつりと呟いた問いに答えは返って来なかった。
「お食事を持って来ますね」
 代わりに返って来たのは気をつかう言葉とすまなそうな笑みだけ。
 静かに出ていく郭嘉を周瑜は少し不安げに見送った。
 程なくして食事を持った女官が来て、夕刻になったら奥の軍議室に来て欲しいとの伝言を貰った。
 郭嘉が来なかったからなのか少し寂しい気がした。そんな自分に軽く嘲笑する。
 持って来られた食事を採ってからする事もなく周瑜は夕刻まで部屋に篭っていた。
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