双子珠の様であれ

□第1巻-1章 「悪霊がいっぱい!?」
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放課後―――

担任に頼まれて明日の授業で使う資料を集めていたら、すっかり暗くなってしまった。
今日は、麻衣達と怪談をする予定だったのに…。
が、思ったよりも遅い時間だ。
もしかしたら、皆すでに帰ってしまったかもしれない…。

そう考えながらも私の足は皆が居る筈の視聴覚室に向かっていた。

「…?」

視線を前に向ければ、人影が一つ。
私が近づいたのに気付いたらしい。前に向いていた視線が、私に向く。

思わずドキリとした。
彼の黒尽くめな服装にもだが、驚くくらい整った顔立ちにも。
だがその表情には「無」しかなかった…。

「こんばんは」

とりあえず声をかけてみる。

「…こんばんは」

一拍置いて返事が返って来た。
今度は笑みを浮かべている。まるで、先程までの「無」が嘘の様に。
だが、私にはその笑みには違和感しか感じられなかった。彼の「無」を、この目で見たからだろうか。

「転校生、ですか?」

「そんなもの…かな」

おかしい。
仮に転校生だとしても、何故こんな時間帯に居るのだろう。
見学だとしても、先生の誰かが案内役として付いているものではないだろうか?(と言っても案内する程、広くはないが)

疑問は、募るばかりだがあれこれ詮索しても意味がない。
此処は、早めに彼と別れるべきだろう。

「そうなんですか。それじゃあ、私は失礼しますね」

さりげなく別れようとしてみた、ら…

「ちょっと待って」

青年に止められた。

「何ですか?」

「僕もこの先に用事が有るんだ。一緒に行ってもいいかな」

何故だろう…。
今の台詞は普通、疑問符が付く筈なのに彼の場合はそれが付いていない様に感じる。
有無を言わせない…とは、この様な状況をいうのだろうか…?

疑問と違和感を残しながらも私は了承の返事を返し彼と2人、雨音の響く廊下を歩き出した。


―――


視聴覚室のほうに歩いていると、声が聞こえてきた。きっと麻衣達だ。
…ちょっとからかってやろうか。
私の中に悪戯心が芽生える。

「―――いち…」

「にぃ…」

「さん…」

「し…」

「「ご」」

重なった声に思わずきょとんとしてしまった。
声の主は私の二、三歩後ろに居た黒尽くめの彼だろう。

何処か他人事に思っている間にも視聴覚室には悲鳴が響いている。

そろそろ可哀想だと思い、部屋の電気を点けた。
視線がこちらに集まる。
皆、何処かぽかんとした様にこちらを見ている。

はっ、とした様に麻衣が青年に声をかけた。

「―――い、今「ご」って言ったのって貴方ですか…?」

「そう…それと彼女も。悪かった?」

麻衣の質問に青年はさらりと答える。(因みに「彼女も」の所ではご丁寧に私に視線を向けて。おかげで皆の視線が痛い)
視線に耐えながらも麻衣の近くに歩み寄る。

「なーんだぁ!腰がぬけるかと思ったぁ」

「それは失礼。明かりが点いてないんで誰も居ないと思ったんだ。
そうしたら声がしたから、つい…」

青年が整った顔立ちをしていたからだろうか?
皆、まだ私に非難の目を向けつつあるが先程よりは些(いささ)か視線が柔らかい。

「そんなぁ!いいんですぅ。転校生ですか?」

「そんなものかな」

続々と繰り出される質問に青年は嫌な顔一つせず、答える。

「何年生ですかァ?」

「…今年で十七」

「じゃ、あたしたちより一年先輩ですね」

「(フツー、「二年生」とか答えんか?)」

何処か怪訝な顔を青年に向ける麻衣に声をかける。

「ごめんね、麻衣。驚かせちゃった?」

「うん、吃驚(びっくり)した。
ケイコってばしがみ付くのはいいけど、首絞まるってぐらい腕に力入れるんだもん」

私は「あはは…」と乾いた笑いを返す。
そんな私を見て、麻衣は苦笑した。

「(あ…)」

麻衣の顔を見て、それから青年の笑みを見てやっと違和感の正体が分かった。

「あたしたち、怪談してたんです」

「ふぅん…、仲間に入れてもらえるかな」

「どーぞ、どーぞっ!
あっ、お名前なんていうんですかぁ?」

椅子を一脚、青年が座れる様にずらしながらも、会話はにこやかに進められた。

「渋谷」

「渋谷先輩も怪談好きなんですか?」

「……まぁ」

ニコと微笑んだ渋谷さん。

「(そっか…)」

「(ん!?)…渋谷さんとやら」

「なにか?」

「(口元は笑ってるのに…、目が笑ってないんだ)」

「(!やっぱり…!
目が笑ってない!その気もないのにニコニコしてるってことは―――こいつ、絶っっっ対にウラがあるに決まってる!!)」

態度から察するに、麻衣も気付いただろう。
この子はそういう事に小さい頃から、敏感だから。



   
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