双子珠の様であれ

□第1巻-1章 「悪霊がいっぱい!?」
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カラン…

複数の靴棚は倒れ、その時の衝撃からか木片がパラパラと彼方此方(あちこち)に散乱している。

麻衣は無事だった。
私は思わず安堵してぺたりと、へたれ込んでしまう。

しかし、周りの状態はとてもじゃないが良いとは言えない。
麻衣に倒れてきた靴棚は、ほかの棚も巻き込んでドミノの様に幾つも倒れているし、先程まで気にしていたカメラは無残にも靴箱の下になって、レンズと本体は真っ二つに別れ、本体なんかは無残にも靴棚の下敷きになっている。
もし運が悪かったら、麻衣があのカメラと同じ目に遭っていたかもしれない。
そう考えると、血の気が引くような感覚が背筋を通った。

ふと背後から、聞こえた声の事を思い出した。
振り返る。

「っ…」

目の前に広がる光景に、思わず息を呑む。

そこには二十代半ばから後半程の男性が居た。
左下半身が靴棚の下敷きになっている。
顔の左半分を隠す様に伸びた長い前髪から覗く赤い物を見る限り、額から血も出ているようだ。

まだ上手く力の入らない足を叱咤して、男性の方に歩を進める。

「だっ、大丈夫ですか!?」

背後から麻衣の声が聞こえた。
麻衣を気にしつつ男性に近づくと、鋭い目付きで睨ま?/

が、

パシッ

その手はすぐに払われてしまった。

「結構です」

冷たかった。
私を見る鋭い瞳も、私の全てを否定する様な声も。

「どうした?」

聞いたことの有る声がした。
顔を上げれば、昨夜の青年―渋谷さんが立っている。
無表情だったが、何処か訝(いぶか)しむ様な目で私に見つつ、倒れている男性に向かって近付く。
彼はこの男性と知り合いなのだろうか?

「…リン?」

呟かれたのは恐らく、男性の名前だろう。
そう思っていたら、渋谷さんは私とは反対側に片膝を着いた。

「何が遭ったんだ?」

私達二人に視線を向けながら渋谷さんが問う。

「あっ、ええと…」

麻衣もいきなり現れた渋谷さんに驚いているのだろう。(その証拠の様に、彼女の声は微妙に震えていた)

パタ…

男性の額から血が滴り落ちる。

「…少し切ったな…。立てるか?」

「はい」

2人のやり取りに、麻衣が慌てた様に言葉を紡(つむ)いだ。

「あっ、あのっ…本当にすみませんっ。急に声をかけられて、びっくりして、それで」
「言い訳はいい。この辺に医者は?」

問われた質問に答える。

「校門を出て右側の道を少し行けば」

「手を貸してくれ」

言われた通りに男性を支えようと手を伸ばしたら、

パシ…

と男性に弾かれた。

「琥珀!?」

「結構です。貴女の手は必要では有りません」

「ちょっと!幾らなんでも失礼でしょ!?」

私がポカンとしている間にも、麻衣は男性に今にも噛み付きそうな勢いで捲(まく)し立てる。(男性はそんな事を気にも留めず、渋谷さんの手を借りて立ち上がろうとしているが)
渋谷さんはそのまま男性を立ち上がらせると、私と麻衣の方に顔の向き変えた。

「……昨日、会った子だな。名前は?」

その態度に腹が立ったのか麻衣は顔を歪ませ、苛立った声で「…谷山!」と返した。

「…高規です」

「では谷山さん、高規さん。親切で教えてさしあげますが、さっきチャイムが鳴りましたよ」

その言葉に、麻衣は呆けた様な表情を見せた後、叫びながら校舎に向かって走り去った。

「貴女は行かなくていいんですか?」

声を掛けられ、私も校舎に行こうと踏み出した。

しかし、怪我が気になって二人に声を掛ける。

「っ、あの!」

「何か」

此方を向いた渋谷さんに先程、払われたまま持っていたハンカチを突き出す様に差し出す。

「良ければ使って下さい。応急処置にしかならないかもしれませんけど、そのまま何もしないよりはましだと思うので…」

「……ありがとう」

間を空けてだが、受け取ってもらえた。
その事にホッとして息を吐くと私は今度こそ、校舎に向かって歩を進めた。



 
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