novel?2

□you know・・・
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こんなに辛いのに、前に踏み出せない。
きっと、重力のせいだ。

地球は、月に近付くことを許さない。それでも、遠ざけることもしない。

だから月は永遠に周り続ける。いつか触れることができると信じて。




【You know・・・ 】


「俺さ、結構マヂだよ?」


いつものように待ち伏せた最寄り駅で、彼を待つ。
ハードな部活の後、生徒会の仕事をこなしていることを知っている。そんな時は普段より帰宅が遅い。
だから、俺の部活が終わった後でも彼に会いに来ることができるのだ。

わざと下から覗き込む、茶目っ気を含んだ行動はもちろんフェイク。
見れば誰だって気付くだろう。俺の瞳に込められた隠しきれない本気に。

案の定、彼は・・・手塚くんは困った顔をしている。
手塚くんの性格からは考えにくい生煮えな表情だ。


徐に髪に触れた。
少しクセのある柔らかな髪。かすかに香るのは部活後に入ったシャワーのシャンプーの香り。
いつだって胸を締め付ける、彼の一部。

相変わらず困った顔のまま、その手を振りほどくこともしない。

以前告げられた
「嫌ではないんだ」という曖昧な言葉が思い起こされる。


「嫌ではない。だが・・・胸が高鳴ることもない。俺は、お前ではダメなんだ。」

はっきりと告げられたくせに、未だここに通い続ける自分の愚かさに、不毛さに視界が滲みそうになる。

触れられたことが嬉しくて、困った顔が切なくて、胸が痛んだ。

本当に不毛だ。
相手にこんな顔をさせている。


そうだ、手塚くんには笑顔をくれる恋人がいる。

今日だって、その相手の所に行くのだ。
それを知っていてなお、こうして通い続ける俺は・・・滑稽以外の何者でもない。

「ね、俺にしなよ。」


何度となく告げた台詞に手塚くんが頷くことはない。

溢れ出るこの気持ちが、己をさらに傷付けると知っているのに、自分に刺さる言葉を吐き続ける。


「ごめんね。何でもないよ。じゃあ、また。」


来るなとも言ってくれない手塚くんが、少し安心したような、それでも強張った顔でホームに消えた。

自宅とは反対のホームへ・・・。


優しい優しい手塚くん。
でもお願い、もう優しくしないで。

自分では捨てることのできないこの気持ちを、彼にズタズタにしてもらえないかと期待している。

冷たくして。

・・・どうせ、そうされたら苦しむくせに。


我が儘で卑怯な恋。

知ってるよ、自分の気持ち。
そして、彼も知っている。俺の気持ちを・・・。


会えた嬉しさとそれ以上の切なさを味わって彼の乗った電車を見送る。


早く捨て去ってしまえ。
もはや醜いだけの、ズタズタになった恋心を・・・。





End

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