novel?

□DEEP
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「まさか、あんたの方から来てくれるなんて・・・。」



【DEEP】



2人とも決勝に残るのは運なんかじゃなく、積み重ねられた力の結果。

だから、今日の予定は最初から入れていなかった。
同じ国にいたって、めったにあの人に逢うことは叶わない。


決勝間近の大事な夜。
明日の試合への闘争心を抱き、一人で静かに集中力を高めていることを知っている。
己がプロになる、と決意する前から、彼はいつもそうだった。
神聖なその時間に水をさしてはいけない、と、こんなに近くにいるのに、顔も見ないようにしている自分に気付いて思わず苦笑いをした。

(俺も随分大人になったよね・・・。)


自分にとっても大切な試合、あの人との決勝戦。

(まっ、今回は負けるつもりはないけど。)


明日になれば必ずあの人に会える、なんてことは分かっているのに、テニスのことを離れれば、思考は制御を軽く無視して、あの人のところへ向かっていく。







マネージャーからの電話を切り、ふっと一息ついてベッドに腰かける。
この部屋から見えるイギリスの少しもやがかかったような空は、絶景といえるほど綺麗じゃない。
でも、そんな空でも目を凝らせば見えてくるのは輝き続ける星達。

突然にあの人に逢いたい、そう思った。
あの人とこの星空を見たいって。俺にとっての「星」のようなあの人と。

小さな灯りの中で、他の星より明るく光る星が、一つ、二つ。

(あっ、そうか今日って・・・。)


その時、控えめなノックの音が扉を介して空気を震わせた。


(こんな時間に誰だろ?)


セキュリティーは万全のホテル。俺の泊まる階に入って来られる人物は限られている。
大方心配性なマネージャーが、電話だけでは足らずに足を運んだんだろう。


「何?もう子供じゃないんだから、寝坊なんてしな・・・」

えっ、なんで?
なんであんたがここに?

扉の向こうに立っていたのは、明日の対戦相手であり、愛しい愛しい恋人。

「・・・星を見ていたら、お前に逢いたくなったから。」


そんな可愛い台詞を零し、朱に染まった目元を伏せる。
会えない時でも、俺のことを思ってくれている、俺と同じことを考えてるってことが何よりも嬉しくて、俺はその目元に優しく一つキスを落とした。



明日の再会の前に、一時の甘い逢瀬を。
2つの星がくれた、七夕の夜の小さくて大きなプレゼント・・・。






END

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