novel?
□赤朱緋・・・。
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全てが欲しい。
そう願うあいつの、体ごともらいうける日が、ついに・・・。
【赤朱緋・・・】
素直に告げたのは、夏の終わりのころだった。
何かを急かすように鳴いていた蝉の声も静かになってきた、そんなころだっただろう。
随分前にもらった手塚の心は、泣きたくなる程暖かくて・・・思いが通じ合っていることからの幸せを感じた。
ゆっくりと恋愛を進めるつもりだった。手塚のペースに合わせて、そうゆっくりと。
キスをすること一つとっても酷く緊張していることが全身から伝わってくる。確かに最初は、そんな手塚を可愛いと思う余裕もあったのだ。
だけど、それも最初の話。
段々と深くなる口づけに、手塚が常とは違った、俺だけに見せる艶やかさを滲み出させたころから俺の余裕も、霧散していった。
甘い、甘い唇をもっと味わっていたい。
その桃色の唇を、赤く染めあげたい。
心だけでない、体ごと全部俺のものにしたい、と。
零れる吐息さえも空気に溶け込ませるのが惜しく思え、全てを貪るかのように激しく唇を合わせた。
口づけを解き、トロンとした目をこちらに向ける手塚に、我慢の限界を感じた。理性の糸が切れる音を確かに聞いたのだ。
そして、手塚の耳元で、自分でも驚くような熱情を孕んだ声で囁いた。
「お前を、抱きてぇ・・・。」
キスの余韻で弛緩している手塚を抱きしめながら、耳を甘噛みする。そのまま首筋に痕を付けた。
俺の酷く直接的な態度に焦ったのだろう。潤ませていた目を見開き、紅潮した顔で手塚は俺を見詰めた。
音にならない声が、その唇から漏れる。
-本気、なのか・・・?-
手塚のペースに合わせる、そう決めたはずなのに、それでも体も欲しくてたまらない。
言葉や空気だけじゃない、手塚自身を肌で感じ、手塚のもっと深くが知りたいという思いが溢れでてくるんだ。
密着していることで分かる手塚の体温は、俺の熱をも吸収しているかのように、どんどん高くなっていく。
「あ・あとべ・・・。」
恥ずかしそうに手塚が話しかけてくる。その間も、手塚の肌を味わうことは止めない。止められない。
綺麗な鎖骨に触れ、その下のシャツに隠された乳首をペロリと舐めた。
「んっ・・・、あと・べ、待って・・・、ぁっ・・・ん。
今日は、ゃっ。」
流石に早急過ぎたという自覚はあるのだ。俺は愛撫を止め、手塚と目を合わせた。
綺麗な瞳が、熱情に揺れている。それは、俺と同じ色をしていた・・・。
「お前の誕生日・・・。」
「ん?それがどうかしたかよ?」
突然今関係ないことを口にする手塚に焦れ、離していた乳首を再びしゃぶる。艶やかな嬌声が漏れた。
「はぁ・・・んっ・・・。お前の、誕生日までには、覚悟、き・決めておくから・・・、今はっ、ゃだぁ。」
肩にすがり付く手塚の指が震えている。指だけじゃない、全身が小さく不安を訴えていた。
急速に理性が戻ってくる。何を俺は急いているのか。大切な大切な手塚との初めてを、こんななし崩しに進めていいはずがない。
何をバカなことを・・・。
「悪かった、手塚。俺もこんなつもりじゃなかったんだ。怖がらせるつもりなんて全然無かったんだぜ。だから・・・。」
-泣き止んでくれねぇか-
手塚の瞳から流れる雫を小さなキスとともに取り込んだ。泣かせたい訳じゃない、本当はいつだって誰より大切にしてやりたい、そう思っているんだ。
「・・・別に、期限なんていらねぇよ。ゆっくり待つから。お前と同じペースで歩くって決めてるんだ。」
そう手塚に告げると、安心したような、でもどこか寂しそうな顔で手塚は小さく頷いたのだった。