novel?

□艶色模様
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ほっんと、俺ってば手塚に遊ばれちゃってるよね。

そんな状態も好きなんだから、手に負えないんだけどさ。




【艶色模様】





今日は何の日か知ってるはずなのに、手塚ってば全然反応が無い。

俺は自分から言い出す訳にもいかず、先程からずっとキッチンに立ち、食材を刻んでいる。
一緒に暮らし初めてから大分経つけど、家事はほとんど俺の担当だ。
手塚がやるのは、コーヒーを煎れることだけ。まぁ、このコーヒー極上なんだけどね。


それと、セックス。
こんなに淫らに開花するなんて想像もしてなかった。
上気する頬も吐息も、淫猥に揺れる腰も・・・、今では俺の方が翻弄されてる気がする。

昨日も満足するまで抱き合って、朝方まで俺は手塚を離すことが出来なかった。
何回挑んでも新しい手塚を発見して、その度にもっと欲しくなる。
結局、手塚に溺れているのは俺なのかもしれない。


まぁそんな感じで朝方までベッドの中で過ごしたもんだから、昼を過ぎても手塚はベッドから起き上がって来なかった。
朝起きてからの第一声は「腹が減った。」だったし。
そんな手塚のために、自分の誕生日の昼からキッチンに立ったりしてさ。
俺って健気じゃない?


―――――――――



ベッドまで運んだオムライスを食べて満足したのか、手塚は「風呂に入る」とだけ告げて、覚束無い足取りでバスルームに姿を消した。



バスルームからは、シャワーの音が響いている。
温かい雨が手塚の躯を伝い、俺の刻んだ跡を流していくのだろう。
触れる度に戦慄する程滑らかな手塚の肌を被っていた白い幕を、無情にも無機物が取り払っていく様子を想像して少し切なくなった。

手に入れた、と思っても、どこか掴み所の無い愛しい人。

特別な日のはずなのに、言葉が一つ貰えないくらいで淋しくなるなんてバカみたいだ。

妙にセンチメンタルな気分の自分を自嘲しながら、手塚が出てくるまでに気を落ち着けよう、とソファに腰掛ける。何をするでも無く、片膝を抱えテレビをぼんやり見ていると、ジーンズにポタリと雫が垂れて染を作った。


「・・・髪乾かせっていつも言ってるじゃん。手塚ってば、全然聞いてくれないんだから。」

手塚の髪から雫が伝う。

風呂から出て来たばかりでバスローブを着た手塚が、髪を乾かさぬまま、屈み気味にソファの背凭れに手をかけてきたのだ。

清潔そうなソープの香りとそれに混じった甘い体臭が鼻腔を擽る。

思わず、昨晩の手塚の淫らに溺れる様を思い出し躯の一部が反応した。
俺も大概正直者だ。


自分自身に失笑しているその短い間に、香りが近くなる。手塚が顔を寄せているらしい。
耳元に唇が寄せられ、甘咬された。そのまま吐息を耳殻を通して流し込まれる。

「一体何を拗ねているんだ?」

酷く楽しそうな声音と共に、頬に温かな感触が伝わる。
・・・手塚からのキスだ。

-こいつ、分かってやってんな。-


滅多に無い、手塚からの直接的なアプローチに悔しいながらも驚かされた俺がソファから動けずにいると、甘い香りが離れていく。少しの間を持ってソファの後ろにあるリビングのドアが開く「ギィ」という控え目な音が届いた。

離れて行った温もりが惜しく、思わず振り向き手塚を目で追うと・・・今度こそ真から固まる光景がそこにはあって。
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