novel?
□透風
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ねぇ、初めては君だったんだよ。
【透風】
初めて出会ったのは、三年前のとある大会。
優勝を手にしたにも関わらず、どこか空虚だった心に、君が入り込んできた。
たちまち輝く心に、君は現金だって笑うかな?
真田と打ち合う君を見て、血がたぎるのを感じた。目が君を追うのを止められない。
春風の精のように、コートを走る君は、幼さの中にもしっかりとした決意を抱いているように見えた。
硬質な雰囲気の眼鏡に、少し跳ねた髪、ほっそりとした色白の体躯はシャツの中で泳いでいる。
最後の一球をコートに沈め、ボールを見詰めていた瞳が空を仰いだ。
今でもはっきりと思い出せる、晴れた真っ青な空。
連られて仰いだ空は、透明な光を湛えていた。そして、引き寄せられるように、君と目が合う、否、吸い込まれたような・・・。
静かに熱い瞳が俺を見ている。
手塚の印象的な瞳が・・・。
時間にして、ほんの数秒程度だろう。
今より大きな瞳が、少し驚いたように開く。
思わず声をかけていた。
「君、大会に出ていなかったよね?名前、教えてくれるかな?」
風が吹いていた。髪の間に入り込み、爽やかに髪を鋤いていく風。
目にかかるそれを耳に掛けているその短い時間に、君が言葉を溢した。
「手塚、国光だ。」
空気を震わす声。君と初めて交わした言葉。
ねぇ、君は覚えているかな?
君のライバルはたくさんいるだろうけど、君と初めて声を交わしたのは、君と初めて瞳を合わせたのは、俺だったんだよ。
今も、輝き続ける君は、あの時より輝きを増したようだった。
舞台が離れてしまっていたことを悔やんでいたけれど、ここからはもう遠慮はしないよ。
約束も出来ずに去っていく後ろ姿に、唇を噛み締めるのは、あれっきりにしたいから。
この合宿で再び出会えたのだ。俺の全部で近付いてみせる。
思い出に生き続ける君ではなく、あの時のような風が吹く、今この場所にいる君に。
「手塚っ。」
まずは、そう最初の一歩から。
こちらに振り向く君の視線を絡めとる。
風のように、然り気無く君に近付いて・・・。
透明な君を手に入れるまで。
END