novel?

□そっと瞳を閉じて
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見えないのならば、開けばいい。
無いのならば・・・、作ればいい。



【そっと瞳を閉じて】


幼い頃は頻繁に訪れていた部屋に、また通うようになってから3ヶ月余り。
俺は、手塚家に来る機会が格段に増えていた。
その理由は一つ、昨年の大会で再会して以来、成長した手塚の輝きに魅了されてしまったからだ。
想いが育たないように、と、距離を開けていた2年の月日は何の意味も持たなかった。

青学の仲間が手塚に近い立場で語り、触れる腕に嫉妬した。
一生告げるはずの無かった、胸の内に仕舞い込んでいた想い。
思わず吐露してしまったのは、成功だったのか、失敗だったのか。

手塚は、瞳を見開いたまま、数秒硬直した後、首を縦に一つ振った。





あれから3ヶ月、俺達の間に変化は無い。
大会の無い日、部活の終了の早いたまの休みに、こうして手塚家を訪ね、テニスの話をし、お祖父様の碁や盆栽に付き合い、夕食に呼ばれ、帰宅する日々。

やはり、確認しておくべきだったのだ。
俺の告白が、愛として届いているのか、友情として届いているのかを。
手塚としては、友情だと受け取りたかったのだろう。さすれば、必死に肩を掴みながら、告げた俺の言葉は珍妙だったに違いない。

どちらにしろ、俺には随分な荒行になっている。
脱却せねば道は無いというのに、俺も自分で思っていた程、意気地が無いと証明されたようで、少し打ちひしがれるのであった。


今日も部屋に通されたものの、手塚は世界大会で活躍した同年代の選手の試合を録画した映像に夢中だ。
手塚の部屋にはテレビが無いにも関わらず、青学の乾がパソコンごと手塚に渡したらしい。
過保護なことだ、と内心舌打ちしつつも、度量の狭い男、と思われたくないばかりに、「有難いな、俺も見たいと思っていた所だ。」などと返答してしまった。

己がこんなにも不甲斐ない奴であったとは知らなんだな。

一目で引き込まれた瞳は、画面の中の選手を追い続けている。
それをこちらに向かせたい。
今すぐに、その細い腰を引き寄せ、唇を奪う。
その蕩けた目を受けながら、手塚の白磁のような首筋に痕を残していく、そしてそのまま後ろのベッドへ・・・。


「今のスマッシュの角度は・・・おい、真田、聞いているのか。」
「たまらんな、手塚。」
「いや、あのスマッシュでは拾われるのが関の山だ。
真田、映像を見ていないのか・・・。」

「角度と言えば、確かに少し上がって来ている気が〃」

「いい加減にしろっ。見ないのなら、お前は何のために来たんだ!!ふざけているのなら帰ってもらうぞ。」

何のため・・・。確かにテニスは好きだ。だが、俺はテニスのために来たのではない。

手塚に・・・
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