novel?
□真田少年の第一歩
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「て・・・手塚っ」
そう相手に必死な形相で話しかけているのは、オッサ・・・スポーツ少年の真田弦一郎である。
彼は馬鹿なぐらい単純で、まっすぐな男だ。そんな彼をみんな尊敬している。
「尊敬?そんなの一度もしたコトないっスよ。あの人、ただの弄られ役でマヂでウザイし。オッサン臭するし」
何だかワカメ頭が実際、彼がみんなにどう思われているか教えてくれたが、伏せておくことにしよう。うん。
そして、高嶺の花に恋をしている普通の少年でもある。
高嶺の花・・・手に入らないからこそ手に入れたい。
「手に入れたい」などという邪な気持ちでは本当の意味で捕まえることなど不可能に等しい。
「さな・・・だ?どうして青学(ココ)に?」
「今日はお日柄もよく・・・」
(お・・・俺は何を言ってるんだ!いかんせん緊張して、頭が回らん)
緊張のあまり、口走った言葉は、結婚式の挨拶でお馴染みのもの。彼の動揺が窺える。早く、肝心なことを言わなければ、「彼ら」が来てしまうのに・・・。
「あ―!真田だ!何しに来たんだよぉ―」
「ムムムっ!」
菊丸英二。真田の天敵の一人だ。普段は「ニャ―ニャ―」言ってるだけで無害の男と思われがちだが、本来はそんな可愛らしい人物ではない。「断じて違う!/(真田)」相手の警戒心を緩くさせ、そこをついてくる実は腹の黒い奴なのだ。
いつも手塚の周りをさりげなくガ―ドしているせいでなかなか真田は手塚に近づくことができない。
(だが、今日はそうはいかんぞ!)
「手塚に用があるのだ。手塚と話しをさせてもらいたい。」
婚約者の家に挨拶に行くぐらい緊張する瞬間だ・・・実際どのくらい緊張するかは真田にはわからない。当たり前だ。彼はこう見えて、まだ中学3年生。つまり、例えだ。例え。
「手塚っ。早く練習始めないと、こんなところで油売ってないでさ。」
「そうっスよ、部長!今日は俺とストレッチするっていう約束だったじゃないっスか。」
(で・・・出た!)
立海の魔王こと、幸村部長と同等の恐ろしさを持つ天才不二周助と何かと真田の前で手塚との仲の良さを見せつけてくる越前リョ―マ。
(まずい・・・まずいぞ!)
真田の苦手とする手塚防衛隊のナンバー3までが集まってしまった。
このままでは、確実に負けてしまうだろう。
『四面楚歌』
そんな四文字熟語が真田の頭をよぎった
そんな時だった。
「19時半・・・」
「え?」
声のした方に顔を向けると
「19時半には部活が終わる・・・それまで待っていてくれるか?」
そこには、真田の大好きな人が、嬉しい言葉を添えて彼を見ていた。
「もちろんだ。待っているぞ。」
真田が返事をした後、手塚が微笑んだように見えたのは気のせいだろうか。
「約束だ。じゃあ、また後で。」
遠くから、真田を罵声する声、呪いを呟いたり、困惑した声が沢山聞こえた気がするが、今、彼の耳には何も入ってこない。
そう、ただヒトリの声だけが頭の中でリピートされている。
「今日こそ、俺の思いを・・・」
夕日が沈みきった。午後7時30分。
笑顔が零れたのは幻想でも夢でもなく・・・
「俺も真田が・・・」
現実なのだった。
「キエ―――――」
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END