novel?

□赤朱緋・・・。
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あれから、二月あまり。あっという間に月日は流れて、風は秋の薫りを運んできている。
部活も引退した、三年なんてヒマなもんだ。今更必死に受験勉強しなきゃならねぇような成績じゃねぇし。


明日は俺の誕生日だ。毎年跡部邸で催される誕生日パーティーは正直、クリスマスよりも大々的に行われる。氷帝に通い初めてからは部活の奴らも来るはで、かなり騒がしい一日になるんだ。
本音は手塚も呼びてぇ所だけど、あいつが喧しい場所が嫌いなことを知っている。不愉快な思いはさせたくねぇ。手塚とは手塚の誕生日に一緒に祝おうって約束だけで充分だ・・・。そう思わなきゃららねぇ・・・。


本当は、一緒に・・・。


迎えの車に乗り、帰路に着こうとしている時、ポケットに入れていた携帯が着信を告げた。ディスプレイに目をやると・・・、いつだって俺の心を占有している「手塚」の文字が表示されていた。


『俺だ。』

『跡部・・・、突然電話なんかして、済まなかった。今、大丈夫か?』
『お前から電話なんて珍しいじゃねーの。ああ、大丈夫だぜ。
まさか・・・、何かあったのかよ?』
『・・・、跡部。』
『ん?どうしたよ?』
『今から、俺の家に来れないだろうか・・・。』
『お前の家に?お前の誘いを俺が断る訳ねぇーだろうが。直ぐに行くぜ。
そうだな・・・ここから20分ってとこだ。』
『ありがとう、跡部。待っている・・・。』




「わりぃな、行き先変更だ。手塚の家に大至急向かってくれ。」
備え付けの電話を取り、パーテーションごしに運転手へ行先変更を告げた。

少し緊張したような、手塚の声。
会えば何かが分かるだろうか・・・。



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「ごめんください。」
手塚宅に着いたが、家には必要最低限の電気しか着いていない。いつも迎えてくれる、彩菜さんの穏やかな笑顔も無い。
出かけているのだろうか?

玄関前に立っていると、奥から慌てたような廊下を走る音が聞こえてきた。この家には、こんな風に走るタイプは居なかったはずだが・・・。
「悪い、跡部っ。気が付かなくてっ。」
慌てた様子そのままの手塚は、いつもとは違った姿だった。もう少し肩の力を抜けばいいのに、と常々思っていたが、自宅じゃそんな歳相応の反応も見せるんだな。

「夕方とはいえ外は冷えるだろう。上がってくれ。」
「あぁ、邪魔するぜ。・・・今日はご両親は出掛けていらっしゃるのか?」
「今日はみなで旅行に行っていて。でも、母さんがお前の分も夕飯を用意して行ってくれたから・・・。」
「さっき、来ること決まったのに俺の夕飯もあるのかよ。」
「昨日のうちから、母さんには跡部が来ると伝えていたから・・・。」
「珍しいじゃねぇの、手塚。お前が予定も聞かずになぁ。でも嬉しいぜ。有りがたく頂かせてもらうさ。」
「あぁ、ゆっくりして行ってくれ。」

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やっぱり、手塚の様子が変だ。食事中も妙に上の空で、おかずは摘めないは、みそ汁は溢すはで散々だったが、今も何かがおかしい。
みそ汁を被ったのだからと風呂に入らせているが、本気で何かあったのだろうか。

リビングのソファーに座り、あれこれと思いを巡らせていると手塚が風呂から出てきた。
風呂上がりでピンク色に染まった肌がパジャマの襟元から覗いている・・・って、釦まで掛け違えてるじゃねぇかっ。

「おい、今日のお前おかしいぜ。何か悩みでもあんのかよ?何でも聞いてやるから、話してみな。」

掛け違いを指摘した釦を必死に直していた手塚が、弾かれたように顔を上げた。頬までも桃色に見えるのは、風呂上がりだからだろうか・・・。

「あ・あとべ・・・。」
「ん?」
「今日・・・」
「何だよ、言ってみろよ。」
「泊まっていかないか・・・?」
「えっ?」
「両親はいないのだが・・・。」
「手塚?」
「風呂、今なら暖かいから。部屋で待ってる・・・。」

それだけ言うと手塚はバタバタと階段をかけ上がり、姿を消した。
「マジ、かよ・・・。」

鼓動がバカみたいに早い。手塚が走って行ってくれて良かった。きっと、俺の今の顔は赤いのだろうから・・・。
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