novel?

□star light night
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部屋に入ってからも、手塚は随分と落ち着かない。部屋の中で散らかっているものを適当にどかし、リョーマが作ったスペースに手塚はちょこんと座っている。
正座を崩さず微動だにしないのだが、その目だけが落ち着かずにキョロキョロと動いているのだ。まるで何かを探しているかのように・・・。

「お待たせ。ホットコーヒーで良かった?ミルクは多目にしといたからさ。あんたの好みだよね?」

階下から戻ってきたリョーマがコーヒーを手塚に手渡す。コーヒーの香りが辺りを包みこんだ。普段ならほっと一息付ける暖かさだというのに、今の手塚にはそのことにさえも気づけないらしい。緊張しているようだった。

リョーマは、ベッドに背を預け、しばらく手塚を見詰めていたが、落ち着かない様子の手塚に手を差し伸べるように口を開いた。

「本当に、今日のあんた変だよ?何かあったなら何でも言って。
俺に出来ることなら何でもしたいんだよ。」
甘い声でリョーマが囁くように告げた。その声音はコーヒーよりもよほど手塚に染み入ったようだった。

堅く口を閉ざしていた手塚が、その可憐な唇を開いた。普段より少し緊張したような、そんな手塚の声が音を形作る。
「実は越前、お前に・・・」
「ん?何?」

「お前にしか頼めないんだ・・・」
「うん、いいよ。言って。」



「・・・お前のを、・・・くれないかっ。」



・・・えっ?・・・

「ちょっと待って部長、『俺の』って何?まさか・・・!!」

手塚の唇が溢した言葉は、リョーマを驚かすだけの充分な破壊力を持っていた。
付き合い初めて早7ヶ月。手塚が恥ずかしがり、まったく恋人としてのステップアップが臨めていないリョーマにとって、その言葉はあまりにも衝撃的だったのだ。
リョーマだとて健全な男の子だ。恋人と二人きりでいる時に、ついついそっちの方向に思考が飛んでしまっても誰にも責められないだろう。
しかも今日は誓ってそんな下心を持って手塚を部屋に上げたのではなかった。
そこに、手塚からの『お誘い』があろうとは。


「部長・・・、俺のでいいの?ついに、覚悟を決めてくれたって取っていいんだよね?」

思わぬ歓喜にリョーマの声が震える。


「あぁ、ずっと迷っていたんだが、やはりお前しかいないと思って・・・。
いや、俺が、お前がいいと思っているんだ。
俺に、俺に・・・」
-ってか、キスだってまともにしたことないのに、本気でいいわけっ!!俺、ここまで据え膳提供されたら絶対もう後戻りできないよ?
いいんだよね、いいってことっスよね!?-


そんな、甘いような、その実どこかズレたような会話が交わされているその最中、部屋の扉が小さく音を立てて開いていた・・・。

リョーマは、手にしていたカップを床の壁際に押し退け、手塚へと手を伸ばす。
恥ずかしいのだろう、目元をほんのりピンク色に染め目を伏せている手塚。緊張からか、渇いた唇を舐める舌が覗き、リョーマを煽っていく。

「部長・・・」

手塚の白い顎に手をあて、上を向かせると、潤んだ手塚がリョーマを見つめ返してきた。
何故だろうか、少し不思議そうな表情をして。

「目、瞑ってよ。」

リョーマがそう告げると慌てたような手塚の声が部屋に小さく響いた。
-こんな時まで、可愛い人-

唇を奪おうと近付けたリョーマと手塚の吐息が触れるような距離になった時、お邪魔無視な小さな侵入者が声をあげたのだった。




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