novel?

□橙日和
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「ねぇ、国光さん。蜜柑食べない?昨日檀家さんからたくさん貰ったんだ。
ちょうど食べ頃だよ。」

あんまり拗ねさせておくのも得策じゃない、と思った俺は、話の転換を図ってみたり。

国光さん、意外と食べ物に釣られたりすること多くてさ、そんな所も可愛いんだよなぁ〃

案の定コクン、と一つ頷く国光さん。やっぱり思った通り。

コタツの上に、籠に入れた蜜柑を置いた。国光さんは丁寧に「いただきます」と言うと蜜柑を一つ手に取り、皮を剥き始めた。

コタツに肘を付き、「(国光さんに食べられる蜜柑は幸せだなぁ)」なんて思いながら眺めていたら、「お前は食べないのか」と声をかけられた。


・・・お前呼び・・・、まぁいいけどさ。


「いや、別にイイッスよ。」
「今の季節は風邪を引きやすい。ビタミン摂取は必要だぞ。
それに・・・」

「それに?」

「蜜柑は美味しいし。」


こんなにも可愛い国光さんが見られるなんて嬉しい誤算だ。
留守番を命じた母さんに感謝かも。


「じゃあ、俺も食べようかな。」

そう言いながら蜜柑に手を伸ばす。

皮を剥こうとして、あっ、やっぱり強く剥き過ぎた。どうも俺は上手く蜜柑の皮を剥くことが出来ない。

だから、部長の前で蜜柑食べるの嫌だったんだよなぁ。


「何だ。越前は蜜柑を食べるのが苦手なのか。
そんなに悪戦苦闘してる奴は初めて見たぞ。」

国光さんがしげしげと俺の手元を覗いてくる。


「だって、アメリカには蜜柑なんて無かったっスから。
オレンジはカットされてることがほとんどだし。
・・・まぁ、オレンジに関しては皮ごと食ってた奴もいたけど。」

「うん?最後のは?」
「いや、こっちの話っス。
とにかく、蜜柑なんて、皮が柔らかいものは慣れてないと扱い方が難しいんっスよ。
でも部長は上手いね。すっごく綺麗。」

俺のぐちゃぐちゃになってしまった蜜柑とは比べ物にならない、まさしくお手本のような蜜柑がそこにはあった。
「蜜柑の剥き方を誉められてもな。
日本人なら大抵出来ることだぞ。」

「いや、国光さんの蜜柑程綺麗に剥ける人は中々いないっスよ。
いいなぁ、そっちの方が美味しそう。」

ぶちぶち言いながらも自分の皮が破れて水分っ気たっぷりの蜜柑を咀嚼する。
見た目が悪いからって残したりしたら国光さんの機嫌が悪くなるのは目に見えてるし。そんな残し方は俺だって嫌だ。

手を蜜柑の果汁で汚しながら、また一つ食べようか、と思っていると、目の前に何かを差し出された。



「味は同じだぞ。ほら、口開けろ。」

思わず呆けたように口を開けると、口触りのいい物が放りこまれた。

国光さんが剥いた蜜柑が一房。

さっきと同じはずなのに、もっと甘酸っぱい何かが胸にも派生する。


「うん。やっぱり美味しいや。
最初から剥いて貰えば良かったな。
国光さん、あーん。」

「甘えるなっ。お前にはお前の分があるだろうが。」

「あれっ?自分がしてくれたこと気付いて無かったんだ。
だって、さっきのは、恋人同士の「あーん」だよ。
じゃあ、得しちゃった。
あんまり欲張ると次がなくなっちゃうしね、今日は我慢するよ。」

「次って?」
「食べさせてくれるでしょ?
また、あーん、してね、国光さんっ。」

「恥ずかしいこと言うなっ。」

「やだっ、言いたいっ!!
今度は俺も国光さんに食べさせてあげるからさ。」

「そんな剥き方の蜜柑食べたくないっ。」

「練習しとくから大丈夫っスよ。
楽しみがまた一つ増えたなぁ。
国光さんといると俺、幸せなことばっかりだね。ありがとう、国光さんっ。」

「・・・また今度な。」


優しい優しい、国光さん。大好きな国光さん。


そんな国光さんと一緒のコタツに入って、一緒に蜜柑を食べている。

-なんかちょっと夫婦みたい-


どこからか居間に入ってきたカルピンが、国光さんの膝に上がり、「ほわら〜ほわら〜」と鳴いている。

国光さんを巡ってはライバルの関係だけど、カルピンを撫でる表情が女神様のように美しいから良しとしよう。

冬の優しい一日。


「二人の家に必ず畳とコタツの部屋を設置しよう!」、なんて早すぎる将来の家の設計図を思い浮かべる俺なのであった。







END
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