novel?

□裏の裏の裏は裏
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扉の向こうには確かに絶世の美人がいた。

百人が百人とも「美しい」と絶賛するだろうその姿。

但し、大半が思い浮かべる「美人像」とはかけ離れているに違いない。


秀麗な顔を曇らせ眉間に皺を寄せ、薔薇色の唇は清楚に閉じられるどころか、好戦的に開かれている。
シンプルなドレスは躯にピタリとフィットし、艶めくラインを浮き彫りにさせているが、足は肩幅に開かれ、腕組のポーズ。
可憐な姫、というより、女王様的な美がそこにあり、危うく自分でも気付いていなかった性癖に出会ってしまいそうだった、とは後の馬役乾談である。


「何度言わせれば気が済むんだ!!
俺ももう15歳だぞ!!婿をとらなければならん歳になったんだ。」

艶々の唇が喋るたびにキラキラと光り、その花びらの先に見える、赤い舌が見る者全てを魅了する。

そこから紡ぎ出される言葉は綺麗とは言い難いものであった訳だが・・・。

「だいたい、お前に口を出される筋合いは無い!!お前は魔女だろうが!!」

「僕だって魔女なんかに生まれたく無かったよ!!
でも、僕も男だ。
君の婿になる権利はあるだろ?」

どうやら「魔女」と名乗りながらも、男であることを捨てられない不二が婿とりについて文句を言っているらしい。

「いや、だめだ。
お前は不二家の長男だろ。
弟はルドルフに養子に出ていると聞いているぞ。
俺にはこの国をより発展させ、幸せな国を造る、という夢があるんだ。
大体お前には、夢も無いだろ?
・・・何を考えているか分からないし。」

「聞き捨てならないよ、手塚っ。
夢が無いだって!?君を奥さんにするのが昔からの大いなる夢さっ!!
何考えてるか分からないって・・・手塚っ!!
いつでも君のこと考えてるに決まっているじゃないか!!
僕の溢れる愛が伝わって無かったなんて心外だな。
まぁ、そんな弊害、屁でもないから、大人しく僕だけの姫になりなよ。
大体、君のお婿になれるような男は他にいないだろ?
君も生まれてこの方、男と接触したのは僕だけだろうし?ベストパートナーじゃないか。(他の男は排除しつくしたからね)」

長々と語る不二に手塚は不思議そうな顔をして首を傾げた。
その仕草に不二の胸がまた一つ高鳴ったのを本人だけは知らない。


「俺だって別にこの歳だ。
男性との接触だってあるぞ?」
「何だって!?手塚、今なんて言ったの!?」

「疑っているのか?
昨日も、
『お爺様』のお髭をふさふささせて頂いたし
昼寝は『父さん』の膝枕でだったし、
『執事』の『鳳』は美味しい紅茶を用意してくれたから、他のメイドにもしているように、ほっぺにスリスリしたんだぞ。
少し照れていたみたいだったが、何でだろうな?」

手塚の爆弾発言に、間近で聞かされた不二をはじめ、扉の外で一部始終を目撃していた跡部一行も驚きを隠せない。
特に、不二の驚き方が尋常で無かったため、部屋のガラスが一枚割れてしまったらしい。大方、魔力のコントロールができなかったのだろう。


「親子のスキンシップには一万歩譲って目を瞑るとして(将来の家族になるんだからね)『鳳』にほっぺスリスリだってー!?」

「あぁ、そうだが?
メイド達に、今海外ではそれが流行している、と聞いてな。
俺もいつかテニス留学するために、海外の文化に触れておこう、と思ったんだ。」


「ちょうたろぉーーーーー、てめぇーーーーーーー!!!!!!」

怒号と共に駿足がなった。
宍戸が自慢の足を活かして鳳の元に走る。
ボコボコという音と共に遠くで「不可抗力だったんですよ、宍戸さぁん(泣)」という声が聞こえてきたが黙殺された。
当然のことだろう・・・。


「鳳さん、そんないい思いしてたんスね。
俺も後でツイストお見舞いしとかなきゃ。」

「オチビ、ほどほどにしとけよ。
俺も菊丸ビームをおみまいしてやらなきゃなんだから。」

「意外とえげつないっスね、菊丸先輩。」

「当然だにゃ。
オチビだって、もう一発、クールドライブを、とか思ってんだろ?」

「あれ、バレちゃいましたか?」


「あーん、顔に書いてあるじゃねぇの。」

今までこの世のものとも思えない手塚の美しさに触れ、茫然としていた跡部だったが、あまりの馬鹿馬鹿しい、基い、お騒がせな展開に正気を取り戻したらしい。

越前と菊丸の会話に加わってきた。


「あ、跡部さん。
そう言えば、着いてきてもらってたんだっけ。」

「だっけ、じゃねぇよ。
まぁ、大体状況は飲み込めたぜ。
俺は、あの姫の相手役をして、不二って魔女の目を醒まさせてやりゃあいいんだな?」

「さっすが跡部、話が早いねー。」

「誰に物言ってんだよ。俺様だぜ?
それに、相手に不足はねぇ。
気が強いくせに天然らしい所も可愛いじゃねぇの。」

跡部が不敵に目を細めた。本気モードに突入のようだ。

「ただし、本気になるのは無しっスよ。
ただでさえライバル多いんスから。」


「そりゃあ、約束できねぇな。」

「「えっ!?まさか跡部(さん)までっ!?」」


そう告げると、跡部は部屋の扉を押したのであった・・・。





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