novel?

□そっと瞳を閉じて
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「お前に会いに来たのだ。」

「何を?」

言っているんだ、と続くであろう言葉を、一瞬迷った上で、唇を指でそっと抑え遮った。

「手塚、お前がどういうつもりで俺の告白に答えてくれたのかは知らん。
だがな、俺は最初から恋人になるつもりだった。
テニスの話をするだけの友人なら、お互いにいるだろう?
もちろん、それでも俺は楽しい。
だが・・・」

一呼吸置くために、言葉を切った。伝えなければならない、それは今なのだろう。
目線を手塚の胸元に移すと、少し速く上下しているように見えた。
視線が落ちてくるのを感じる。

「お前の全てが欲しいなどと言うつもりは無い。
だが、お前の心に住み続けられる人間になりたい。
手塚・・・。」


肩にそっと手をかけ、手塚の瞳に自分を写し込む。

「お前に触れていたい。
お前を感じられる場所にいたい。
キスを、してもいいだろうか。」


絡んでいた瞳が解かれ、顔を赤く染めた手塚が首を一つ縦に振る。
もう間違えたくはない。

「了承と理解していいんだな?」

顔を近づけそう問うと、そっと瞳が閉じられ、震える睫毛が頬に淡く陰を作った。
息を飲む程の美しさがそこにあり、口付けをしてもいいのか、と思わず躊躇うようであった。

その睫毛を親指でなぞり、唇を指の腹でなでる。
頬に手をかけ、息のかかる距離に目眩のような感覚を覚えながら、手塚の唇に触れた。

触れた先から溶けるかと思う程に柔らかなそれから、名残惜しく離れると、手塚は潤んだ瞳を伏せながら、吐息のような声で告げたのだった。

「お前が、友達のように接してくるのなら、俺もそうしようと思っていた。」

「それは、何故だ?」

「想いを伝えられたのは、俺なのに。俺から態度を変えたりしたら・・・っそんなの、何だか、はしたないだろっ。」

「手塚・・・。」

「別に、お前とのことで、嫌なことなんか一つも無かったんだ。
だから、本当は・・・。
こうしてもらうのを・・・」

答えを聞かずに強く抱きしめ、尋ねることもせずに唇を奪う。

先程のキスでしっとりとした下唇をはみ、薄く開いた唇から舌を入れる。
歯列をなぞり、奥で縮こまっていた手塚の心ごと強引に引き寄せ、その甘い舌を吸った。
手塚の唾液も吐息も全て取り込み、髪を撫でていた手を腰へと移していると、胸を弱々しく叩かれた。
すがり付くように拳が開かれ、シャツに指が落ちるようにひっかかっている。

そこで初めて我に返った。

「っ悪い手塚。
衝動に負けてしまったようだ。次からはきちんと許可を取らせてもらう。」

「いいから。」

「うん?なんだ、手塚?」

胸元のシャツをぎゅっと掴まれたかと思うと、胸に頭を寄せ、そっと告げられた。

「許可なんていらない。
・・・息つぎの仕方を教えてくれるなら、の話だけどな。」

その仕草と言葉に熱くなり、再び口付けると、重なり合った唇から抗議が上がった。

それさえも飲み込んで。非難ならこの後、甘んじて受け入れよう。
手塚が瞳を閉じる気配を感じながら、甘い全てに酔っていく。


相手の気持ちが分からないと不安がるよりも、自分を信じて、相手を信じて踏み出せばいい。

その一歩さえも受け止めて進んで行ける。
一人では無いのだから。


まずは、キスより先にどう進もうか思考を巡らせながら、手塚の腰に手を回し、息つぎの仕方を教えるべく唇を重ねるのだった。




END
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