Novels Room2
□その声が呼ぶ名は
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いまだ臀部を撫でまわしている男に気取られぬよう、昌浩はそっと小さく自分の左腕を持ち上げた。
潤んだ瞳で見詰める手は細く、渾身の力を込めたとしてもそれは脆弱なもので、布越しに伝わってくる男の手の感触から察するに、逆に掴まれ、押さえ込まれてしまうかもしれない。
「……くっそぉ……」
成長途中の我が身が恨めしい。
その間にも、臀部を撫でまわすだけでは満足しないというのか、手は割れ目にそって指を這わせ、ゆっくりと、ねっとりと何度も往復している。
初めは軽く触れるだけの力だったが、今では完全に押さえつけている。
陰嚢ぎりぎりまで割れ目を辿り、触れるか触れないか危ういところで来た道を戻る。
その繰り返しだ。
「ぐ、ぅ……」
男の生臭い、乱れた息がまるで感じられたようで、思わず顔を背ける。
いつの間にか次の駅のホームに到着していたらしい車体が止まり、後ろの乗車口が開いたのとほぼ同時だった。
「気をつけろ」
支えを急になくし、よろめいた昌浩の背中を青龍の腕が掻き抱く。
「あ、ありがとう」
助かった。
勢いに任せ青龍の胸にしがみ付く。
手の持ち主である男はこの駅で降りたのだろうか、臀部には撫で回された忌まわしい感触が残るばかり。
助かった。
もう一度心中で同じ感想を漏らし、車体が再び動き出すのを待ち受ける。
「よかった……」
ふたりが下車するのは次の駅。
心から安堵の溜め息を吐いた直後に、それはやってきた。
「――な……っ!」
言葉が出ない。