Novels Room2

□その声が呼ぶ名は
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 安堵の溜め息と共に閉じられた瞼が、大きく見開かれた。
「――……っ!」
 昌浩の背筋を、嫌悪感とも快楽ともつかないものが駆け抜けていく。
 彼の臀部を撫で回していた男の手は、今正面に回り込み、服の上から静かに、かつ激しく愛撫を始めていた。
「あ、……ぅう……っ」
 そこは、自身と愛する紅蓮以外の手に触れられたことのない場所。
「昌浩……?どうした、酔ったのか?」
 縋りつき、胸板に顔を埋める昌浩の背を、青龍が心配そうに撫でてくる。
「ううん、なんでも……ない……」
 この状況で顔を見られたくない。
 顔を上げずに腕の中で小さく首を振る。
「本当か?」
 十二神将は、やはり神なだけあって勘が鋭い。
「なんでも、ないよ」
 でも知られたくはなかった。
「……そうか」
 納得しきっていない声がそれ以上の詮索を諦めた後も、昌浩の背を撫でる手は止まなかった。
「紅蓮……」
 本当は、本心では、助けてほしい。
 この状況から。
 誰か見知らぬ存在に、男に、紅蓮以外の存在に体をいいように弄られているこんな状況から。
 だけど言えない。
 男が痴漢されている。
 その事実がなんだか恥ずかしくて。
 そして助けを求めている相手が、目の前の青龍ではなくて紅蓮だということを知られたくなくて。
「ぅ、ぐ……ぇ」
 紅蓮により感じ易く開発された場所を弄られても、込み上げるのは吐き気と嫌悪感ばかり。
 いつもなら感じるはずの快楽は、まるで存在しないもののように訪れようとしない。
「助け……ぐれ……」
 今まで目の端に溜まっていた涙が、堪えきれずに零れた。
 我慢していた嗚咽が微かに漏れる。
「昌浩、何を泣いている!?」
「うわっ」
 ――知られた。
 青龍の手が顔に近付いてきたと思った時には遅く、驚いた声が聞こえてきた直後には、顎をぐいと持ち上げられた。
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