WONDER RAIN
□手をつなごう(2周年記念)
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着替えと歯磨きを済ませている間に腰の奥の燻りも何とか治まった。俺はいそいそと出汁巻き玉子を頂きに母屋の食堂へと向かう。
野茨の家は無駄にでかい平屋造りをしていて、来たばかりの頃はよく迷子になっていた。
縁側の渡り廊下を歩きながら既に開け放たれた雨戸の先の中庭を見遣る。
程よく手入れされた松の木が青空目掛けて枝を大きく伸ばしていた。
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「おはようございます」
辿り着いた食堂にはもう7人兄弟の姿はなく四男の一騎だけが残っていた。
長い脚を優雅に組み英字新聞を広げて読んでいる男の向かい側の席に座る。
この家は純日本家屋だが食堂はフローリングになっていて兄弟全員が座れるダイニングテーブルが置かれてあった。
もちろん最新のシステムキッチン完備。これは三男によるリフォームらしいが。
「遅いんじゃないか」
新聞越しに冷たい銀縁の眼鏡が光る。神経質そうな四男に俺は曖昧に頷いた。…アンタの弟に襲われて遅くなりましたと言えたらどんなに楽か…。
テーブルの上には一人分の朝食がきちんとラップされてあった。戴きますと両手を合わせて、まだほんのり温かいそれらを俺は有り難く頂戴する。ああ、侠馬さんの作る和食最高!
「幸せそうに飯食うのな」
ばくばく食べる俺を見て一騎さんが笑う。いつも神経質そうなんだけど笑うと柔らかい雰囲気になるんだよな、この人。
「お前今日休みだろ?」
頷きながら豆腐とお揚げの味噌汁を啜る。んまいっ。
「俺も休講。…なぁ、セックスしねーか」
「ッぶーーーー!!!」
みみみみ味噌汁噴いちまったじゃねーかぁああ!
なに気軽に誘ってやがんだコイツ!せせせセック…しゅとか言うなッ。口に出すなぁあ!
「そんなに焦る事ないだろ」
冷ややかに見詰められて顔が羞恥で赤くなる。子供っぽいって思われたかな。でも実際子供っぽいし。
そろりと一騎さんを伺えば何事もなかったかの様に珈琲を入れに席を立つ所だった。…ここんちの兄弟絶対オカシイよ。
俺はお椀に残った僅かな味噌汁を飲み込むと空になった食器を重ねて流し台へと運び手際よく洗い流していく。
「なぁ、」
珈琲を口にしながら一騎が後ろに立つ。
「抱かせろよ」
ゴトンとシンクの脇にマグカップを置いて俺の腰に腕を回してきた。この変態兄弟!泡々スポンジ目ん玉に突っ込んでやろーか!
「命の恩人に恩返ししても罰当たんねーよ?」
肩に顎を乗せてこちらを覗き込む一騎さんにビクリと躯が揺れる。
命の恩人…。これは嘘じゃない。でもそれは一騎さんの事だけじゃない。
「あ、の…、っん…」
けれど反論しようとした口は呆気なく一騎の唇によって塞がれてしまった。