WONDER RAIN
□拍手小話
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明日、明後日、明々後日。
初めて会ったのは、小学校の入学式があった日。ひとつ年下のお前は、優しそうな女の人の後ろで恥ずかしそうにこっちを見てた。
「一騎くん、うちの夜風とお友達になってあげてね」
スカートの裾をギュッと握り締めてるチビを一瞥して、俺は黙って頷いた。
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「なぁ!一騎って、チュウした事ある?」
「………はぁ?」
中学生になった俺と、小学6年生の夜風。いい加減、ガキんちょとつるむなと言われたりもするけれど。
俺にとって、夜風は特別だった。
「何、お前チュウしたいの?」
「うー…。だって」
だって、何だよ。好きなコでも出来たのか、気になる年頃なだけなのか。一生チュウなんかしなくていいだろ。
「お前、モテなさそうだもんな。チビだし、人見知りだし、不細工だし?」
嘘。嘘、嘘、嘘。ぜんぶ嘘。
夜風は別に背が低いわけじゃない。少し人見知りなくらいで、何より、めちゃくちゃ可愛い。
俺の言葉に傷付いて俯く横顔を盗み見た。長い睫毛、零れそうな瞳、小さな鼻、ぷっくりした唇。男の割に白くてきめ細かい肌と、黒くて癖の強い髪のコントラストが絶妙で。
「チュウくらいなら、俺が教えてやるよ」
思わず見上げてきたその瞳に手を翳し、自分の唇を押し付けた。
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夜風が中学に上がった頃、2人でする自慰を教えた。1人でやるより気持ち良いからと言えば、少しの間逡巡して、コクリと頷いた。
将来を考えて私立の進学校に外部入学しようと決めたのも、この頃。夜風の全部が欲しくて、どうやったら手に入るか考えた末の、浅はかな結果だった。
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受験勉強のストレス。処理しきれない、同性の幼馴染みに対する性欲。その正体がよく分からないまま、俺は無理矢理夜風を組み敷いた。
初めて口に含んだ熱。舐めて、吸って、飲んで。体中に紅い鬱血の跡を残した。コイツは俺のモノだという、所有印。
そして、泣きじゃくる夜風を見下ろした俺は、コイツに恋愛感情を抱いていたんだと気が付いてしまった。
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「一騎」
呼ばれて振り返る。くるりと跳ねた黒髪をぴこぴこ揺らして、俺の隣にやって来る。
「飯食いに行かない?」
「奢れって?」
「ダメ?」
甘えてくる可愛い仕草に溜め息が出そうになる。
「構わん」
「やった!一騎の幼馴染みで、すーっごい良かった」
これから先も、こんな風に曖昧な関係で居続けるんだろうか。仲の良い幼馴染み。都合の良い幼馴染み。性欲処理の…相手?
「バカ夜風。チビ、不細工、人見知り」
「…臆病者…」
ぽつりと零された言葉に、結局俺は何も返せなかった。
おわり
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離れられないのは、俺だけのせいじゃないもん。