WONDER RAIN
□『WONDER RAIN』
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始まりはオレンジ
『ゴトン』
手にしていたエコバッグが床に落ちた。
『ゴロン』
中から瑞々しいオレンジが転がる。
Cafe & Gardening-Shop『WONDER RAIN』
緑豊かな店内で美味しいランチとティータイムを提供する素敵なカフェ。
それはご近所の皆さんの憩いの場で。そして俺、朱屋 夜風の大切な職場でもあった。
現在22時過ぎ。
今、その憩いで大切なお店は無惨にも"著しく素行が悪い"とゆうレッテルを貼られた人間達に乗っ取られていた。
(なんじゃこれええええ!)
半開きのドアからカラフリー頭を眺めつつ、床に転がるオレンジもそのままに心の中で絶叫する。
絶対声には出さない。
広くない店内にカラフリー頭が30人位いるのだ。もし声を出そうものなら俺は生きて此処から帰れないかも知れないッ…!
なんじゃこれを心中で繰り返しつつ、そおっと屈んでオレンジを掴んだ。
あで?一個足んない?
屈んだままキョロキョロと辺りの床を見回した…その時、
「ぉわ!何かある!」
カウンター席から驚いた声と共にグシャッてゆう何かが潰れた音。踏んだぁ〜なんて言いながら緋色の髪を揺らしてる奴、椅子にでも乗り上げてるのか頭一個分抜きん出てるんだけど。
多分そいつの足元からだろう、ゴロンゴロンと探していた果実がこっちに転がってきた。
店中に広がる爽やかな柑橘類の香り。
「何、大丈夫なの?」
「………大袈裟」
こっから見えないけどカウンター席に居る奴らの声だけは聞こえる。
そして半分潰された憐れなオレンジが漸く俺の元に帰還した。
「え〜俺何踏んだの〜」
緋色の髪がひょこひょこ揺れてる。あいつだよ、オレンジ君。あいつが君をこんな目に合わせたんだよ、可哀相に…。
可哀相に…君、一個100円するのにね。てかオーナーに10個買ってきてって言付かったのに、これじゃあ9,5個じゃん?どうすんだよ。オーナーめちゃ優しい人だから許してくれるかもだけど、そんなの俺が許せないよ。
ふと、昼間見たオーナーの顔を思い出した。
優しく眇められた目、すっと通った鼻梁、形の良い唇。ご近所の主婦さんやOLさんを魅了してやまない、あの超絶美形を。
ごめんなさいオーナー!俺がチキンだったばっかりに大事なオレンジを!
そこまで考えて俺は我に返った。そういえばオーナー、何処に居るの?もしかしてカラフリー頭達に追い出された?何これ道場破り流行ってんの?
俺は手にしたオレンジ君を握り締めると勢いよくガバッと立ち上がった。
そして途端に立ち竦む。
(ななななななんで)
皆こっち見てんのおおおお!