WONDER RAIN

□鼓動、瞬間、初恋
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鼓動、瞬間、初恋


 青葉揺れる3月。我が職場ワンダーに新しい従業員がやって来た。

「は、はじめまして」

俯き加減に挨拶をする小僧。おいおい、これから接客するっつーのに大丈夫かよ。俺は胡乱な眼差しを雇い主である野茨瀧に送った。
ったく、何処で拾ってきやがったそんな使えねぇ奴。

 そもそもワンダーで働くには条件があった。それはただ一つ、地元の不良チーム『SIGNAL』の関係者である事。

今だ俯くそいつの肩に手を置いて俺と美津に笑い掛ける野茨瀧は、何を隠そうSIGNALの創設者だ。その昔、最強最悪と恐れ敬われた伝説の総長なのだ。

俺や美津もSIGNALの元メンバーで、何より閉店後の店はチームの集会場として開放している。
だから、明らか一般人であるそいつを雇うのは危なくないだろうか。

 俺は反対だと目線だけで訴える。それに対して瀧が威圧的な視線を投げて寄越した。

「………」

尊敬する伝説の総長だ。逆らえる訳ねーっての。高い給料貰ってっし。

もう一度だけ小僧を見遣る。やはり俯いたままだ。…ああ、先が思いやられる。



+++++

「あ、あの、2番テーブルのオムランチ、まだですか」

 遠慮がちに問われて返事の変わりに舌打ちをする。ひくっと息を詰める小僧に出来上がったばかりのオムライスを突き付けた。

ふわりと立ち上る湯気の向こうに団栗みてぇな目玉が一個、揺れてる。

飲食店に勤めてる自覚が足りねぇんじゃねーだろうな。長めの前髪に顔半分隠しやがって。

髪の長さについては俺も言えた義理じゃねぇが、せめて美津みてーに結わえるか俺みてーにバンダナ巻くかしろよ。

3週間経つのに、お前の顔、まだちゃんと見れてねぇ。

「夜くん、それ運んだら6番テーブル片して」

すっと美津が現れて小僧に指示を出す。はいと小さく頷くと、美津の方を向いて小僧が笑うのが分かった。

 そういえば美津の野郎は最初っから朱屋夜風には優しかった。俺とは反対に良く面倒を見ている。

「侠ちゃん、あんまり夜くん虐めないで」

「…虐めてねぇ」

お前こそ何であんな使えねぇ奴に構うんだよ。
ぼやきながら銅製のフライパンを振る。オーダーはまだまだ沢山あった。

「だって。一生懸命だし」

そうゆう所、可愛いと思う。

林檎ジュースをソーダ水で割りながら美津がくすりと笑う。あいつの何処が可愛いんだ、何処が。

オリーブ油を引いたフライパンに潰したニンニクと鷹の爪を放り込む。

同時に片した食器を持って夜風がキッチンに入って来た。俺はその顔を横目で盗み見る。

…やっぱり、長い前髪が邪魔をして顔は全く見えなかった。



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