WONDER RAIN

□拍手小話
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『Chocolatier』
 └WONDER RAINバレンタイン小話


 柊小鈴は呆れていた。これが、そこいら中の不良とゆう不良を慄かせる人達の姿なのかと。

「………で、何作ってるわけ?」

 たっぷり間を置いて問い掛ける最中にも鼻腔を襲う甘ったるい匂いに、ついつい眉間に皺が寄る。2月に起こるイベント事など分かってはいるが、まさか不良の男共がそれに乗っかるとは考えたくもない。

まあ、中には貰った数を競う頭のよろしくない連中もいるだろーが…。

「何ってぇー、チョコレート。バレンタインじゃーん」

 カウンター席から覗くキッチンから満面の笑みを携えて、デレデレと宣う楓に小鈴は頭痛を覚えた。いや、分かってはいたんだ。閉店後のカフェに入った途端、噎せる程チョコの匂いに襲われたのだから。

でもまさか!

それを撒き散らす犯人達の中に素直が居るなんてー!

 この心の葛藤をどうしてくれようか、素直さんよ。無口でクールな所が素敵だとか喧嘩の強さに憧れるだとか持て囃されてるお前が、何一生懸命にチョコの粒を湯煎に掛けているんだ…!カチャカチャうるさいよ!

「なんっか…、涙出てきた…」

 よろめきつつキッチンへと足を運ぶ。案の定、2人以外に楠さんと十神さんも一緒に居た。

「誰が言いだしたんです?」

「さぁ。誰だっけ」

 くすりと笑いながら十神さんから苺のパックを手渡される。水洗いはせずに、湿らせたキッチンペーパーで汚れを拭い取る様に指示された。

 ちらりと横を見れば無言で作業をする我等が総長と前総長、その向こうには鼻唄を歌いながらココアパウダーを振りかける副総長…。

 まるっきり威厳を感じさせないこんな風景、彼等を尊敬するSIGNALのメンバーには到底見せられたもんじゃないな。

 手元の苺を一つ摘んで、小鈴はふっと息を吹き掛けた。



+++++

「…敢えて聞くけど、これ全部、朱屋さんに?」

 楓が作った生チョコのトリュフ、チョコのスポンジにチョコクリームを施したケーキは素直と楠さん、十神さんがチョコチップを練り込んだクッキーで、結局俺が作ってしまったチョコ掛けの苺。

 カフェのテーブルの上に並んだチョコ菓子を見渡してげんなりする。朱屋さん一人が食べるにしては、流石に量が多いのではなかろうか。

「…ホワイトチョコでホットチョコレートも作る…」

 おいおい何を言ってるんだ楠さんよ。しかも、その手に持っているのは…。

「これで一先ず完成だ」

大きなハート型のチョコレート(しかも桃色!)がケーキの上に乗せられた。ご丁寧に『LOVE ME 』と書かれている。

「これー俺が書きたかったのにぃ、素直が書いたんだよねー」

 返事の代わりに耳を紅く染める素直に殴ってやりたい衝動が沸き起こる。ラブミーって何だラブミーって!直接口で言えよこのヘタレがー!

「素直、アイラブユーじゃないのはどうして?」

 十神さんがにこやかに尋ねているけれど、明らか背中に夜叉オーラが見えている。

「気持ちは伝わってる」

 何処からくるんだその自信は。

「でも、まだ、受け入れてはくれない」

あ、自分で言って落ち込んでる。

「じゃ、夜くんには今日こそ受け入れてもらおうかな…」

 十神さんの前向きな意見に素直も楓も楠さんも頷く。…あのー、ひとこと言ってもいい?

「受け入れてもらえるのは、この中の誰か一人って事だよね」

 勿論、苺のチョコ掛けを作った俺にも権利はあるわけで。ここは公平に、どのチョコ菓子を最初に食べるかで競うのはどうだろう。

 突如緊迫した空気に息を飲む。これぞ不良共が憧れるSIGNAL幹部の纏う空気だった。

…が、それも束の間。

「こんばんはー」

 カロンカロンとドアベルを鳴らして朱屋夜風が来店すると、何故かチョコより数段甘い空気がカフェ中を満たし俺達は笑顔で彼を迎え入れた。

 ああもお。チョコより甘ったるいアンタを喰ってやりたい気分だよ。


終わり


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