小説・陽光に包まれて

□ともだち
3ページ/4ページ

私達の知らない所で、色んな事が決められて行ったようだ。

翌日の午後は、教授クラスの先生方の講義が、急遽休講となった。

掲示板には涼介を始めに、亜依子達の名前が張り出され、「放課後特別講義受講の事」と張り出されていた。

「宗像教授が、精一杯説得してくれたんだろうね。」

「そうだね。でも、亜依子達には、解らないかも。」


私と伊勢田君は、少し離れた所で、掲示板に集まる皆を見ていた。

案の定、亜依子と健太郎は、文句を言いまくっているみたい。


「放課後特別講義受講って、何よ!」

「受講しないと留年って、どう言うことだ。」



ふと、大吾が不安そうに、小さな声で呟いた。


「涼介の名前があるし、これって、昨日の飲み会のメンバーじゃないか?」

「どうして?昨日の飲み会、何も問題起こしてないよ。それに、清良の名前ないじゃない。」

「…ぅ」

絶句した俊一が、私達を見つけて詰め寄ってきた。


「清良。そう言えば昨日、何か言ってたよな。」

「えっ…。」


「ただの喫煙を、大袈裟に騒いで、宗像にでもチクったのか。」

「…」

「清良?…そうなの?どうして?」

「住吉さんは、何もしてないよ。僕が、宗像教授に話したんだ。」

さっきまで、私を責めるような態度の亜依子達が、伊勢田君の言葉に驚くと同時に、焦った様子に変わった。

なに?

「…ぇ…」

突然、誰かに右腕を掴まれた。


「ふ〜ん、伊勢田か。」

「…涼介」

突然後ろから現れ、私の腕を乱暴に掴んだ涼介の顔は、怒りで歪んでいた。

腕を掴まれ、痛いのと怖いのとで何も言えなくなってしまう。

「伊勢田、話があるんだ。顔かせよ。」

「…住吉さんの腕を離せ。」

「俺との話に従うならな。」

涼介の指に力が入って、腕が痛んだ。

「ぃた…」

「…くっ!」




一瞬だった。

後ろ向きに倒れた涼介を、睨みつける伊勢田君が、私を庇う様に立っていた。

「彼女に、乱暴するな。」

「…はるみつ君…」

「カッコつけやがって…。お前が素直に、話に応じるなら、こんなやつ用なんかないんだよ。」

「…こんなやつって。君は…まだ、そんないい方を…。
いくらでも、話は聞くよ。」

「じゃあ、もっと適切な場所に案内してやるから、ついて来い。」

「解った」




「話を聞くのは、こっちが先だよ。九鬼涼介君。」

人だかりの中から、宗像教授と他の教授が現れた。
あと、知らない人もいるけど…。まさか…。


「すぐに、学長室に来てくれないかな。君の気持ちも聞きたいから。」

「チッ……解ったって…」

宗像教授は、伊勢田君をちらっと見てから、涼介を連れて本館校舎に向かって行かれた。


一部始終を見ていた学生達もばらばらと、掲示板の前から去っていく。

亜依子達も、私を見ていながら、話しかけることもなく食堂の方へ去っていってしまった。


「…亜依子」

「腕、大丈夫?痛まない?」

「…大丈夫。」

「…ごめん。」

「え?」

「君を…守れなくて。」

「…ううん、守ってくれたよ。嬉しかった。…ありがとう。」


そう、伊勢田君は、私を涼介から守ってくれた。
怯む事もなく、私の腕から涼介の手を払いのけて。
涼介を睨みつける伊勢田君には驚いたけど、凄く嬉しかった。


「休講だから、帰ろうか?」

「うん。」


自然と繋がれる手が、嬉しいけど切ない。


友達になる前から、手を繋いでいた私達。

伊勢田君の温かい手が、不安と寂しくで冷え切っていた私の手を温めてくれていた…。

それが心地よくて、当たり前になって…なくなったら不安で。

今は…今も…。

亜依子達を無くしてしまいそうな、悲しい気持ちを全部、伊勢田君に受け止めて欲しい。

温かい手と眼差しで、もっと包んで欲しい…。

だけど、それ以上に…もっと近づきたい。

いろんな気持ちがいっぱいになって、絶えられなくて辛い。


「どうしたの?…」


俯く私を見つめる、温かい眼差し。


「彼や亜依子さん達の事は、心配だろうけど大丈夫だよ。
宗像教授が、絶対にいい方向に導いてくれるから。安心して。」

「…うん。そうだね。」

優しい眼差しは…
友達だから…。


「いつか、解ってくれるよ。…それまでは、寂しいだろうけど。」

「寂しくなんかないよ。だって、はるみつ君が、と…」

「…なに?」

「…ともだち…だもん…」

「…そうだね。」


黙ったまま、手を繋いで歩いた私達は、伊勢田君のアパートの前に着いてしまっていた。


.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ