小説・陽光に包まれて
□ともだち
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ここでお別れ。
私は、駅に向かう道をまっすぐ行くのだから。
だけど、手を離したくなくて…。
もう少し、一緒にいたい。
「…元気ないけど。やっぱり…。」
「…ん?」
繋いでいた手が、少し離れていくように、力が緩められた。
「僕だけじゃ、だめだよね…。」
「ぇ」
驚いて顔を上げたら、伊勢田君と視線が合うことはなくて、彼はどこか遠くを見つめていた。
「住吉さんには、大切な友達だから、いけない事に関わったとしても…辛いね。ごめん。解ってなくて。あんな態度されたら、寂しいよね。」
「はるみつ君」
「無理しないで、言って欲しいんだ。僕だけじゃ、埋められないと思うけど。」
…繋いでいる伊勢田君の手が、微かに震えている。
「僕は……頼りないと思うけど。」
「…そんな事ない。」
「…でも、辛そうだよ。…僕に…言って欲しいんだ。辛いなら辛いって。…どんな事が辛いのか。」
そんな事言えないよ。
あなたに、全部受け止めて欲しいなんて。
友達だから、真剣に支えようとしてくれているのは、嬉しいけど…。
「…言える訳ないよ…」
「…」
ぽとんと音がするように、静かに手が離れていった。
「やっぱり…迷惑だね。…初めてなんだ。誰かを…守らなきゃって思ったのは。」
「…ぇ?」
「でも、解った…。
もう、無理は言わないから。ごめんね。」
違う…。
そんな悲しそうな顔しないで。
あなたを否定したわけじゃないの…。
「違うの。…違うの。違うんだよ。」
繋いでいた手が無くなって不安な気持ちが広がっていった。
伊勢田君を悲しませるような事を言ってしまって、一番傍にいて欲しい人なのに、離れて行ったら、どうしたらいいの?。
「違うの…違うの」
しゃがみこんで泣きじゃくっている私の頭を、温かい手のひらが包み込んだ。
「泣かないで。
なにが違うの?。ごめん、解らないよ…」
顔をあげると、目の前で伊勢田君の悲しそうな瞳が、私をじっと見つめている。
「…」
何も言えなくて、ただ伊勢田君の指に触れた。
その気持ちを察してくれたのか、手を繋いで微笑んでくれたんだ。
「…駅まで…送るよ。」
手を繋いで歩き出した。繋いだ手だけをゆらゆら揺らした。
黙ったままが辛くて…。
陽が傾き初めて、空気も風も一層冷たくなってきた。
「寒いね。風邪引いちゃうから、」
そう言って、自分のマフラーを私に巻いてくれる。
元気がない私に、精一杯気を使ってくれている…
でも、
辛いから…逃げるしかない。
「ありがとう。あのね…さっきの話、迷惑じゃないよ。
…支えて…。やっぱり、辛いから…。
はるみつ君と私は…と…ともだちだもんね。…甘えてもいいよね。」
「…うん、…そうだよ。…ともだちだから…住吉さんの事…守るよ。」
繋いだ手をゆらゆら揺らしながら、駅への道を歩いた。
黙ったまま歩いた。
友達なんだ。
友達…。
苦しさから逃げたはずなのに…。
………………………。
悲しいのは、なぜ。
亜依子達との事と混じって、自分の気持ちが解らないよ。
「じゃあ、また、明日ね。」
「うん、気をつけて」
伊勢田君に、背を向けて走って改札に駆け込んだ。
友達…だから、優しいんだから…。
消さないと。
…消えて。
私のこの気持ち。
.
続く