小説・陽光に包まれて

□はるみつING
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「家族がいないって…」
「そのままの意味。
親戚はいるけど…迷惑だろうし、今は会ってないんだ」
家族がいないって事は、伊勢田君は一人で生活してるって事?。
どうして?。そんな悲しい事に…。
「そんな顔しないで。せっかく笑ってくれたのに、また、悲しそうな顔されちゃった。僕のせいだね。
でも僕は、もう大丈夫だから。心配いらないんだよ」
「でも」
「僕は一人で生活してるけど、独りぼっちじゃないから、大丈夫。」
「独りぼっちじゃないの?」
「うん。独りぼっちじゃないよ」
また、温かい笑顔…。
「宗像教授が…僕の保護責任者になってくれてるから」
「保護責任者?ただの先生じゃないの?」
「うん。」
伊勢田君は、温かい紅茶を入れながら、ポツリポツリ話してくれた。
「両親がね、中学の時、急に亡くなったんだ。
事故…なんだけど。
祖父母も既に他界していて、僕は一晩で独りぼっちになった。」
「ぇ…」
「親戚とか、近所の人が助けてくれたけど。
辛すぎて、どうしていいか解らなくて。良くして貰っているのに当たり散らしたりしてた。
どうして、生まれてきたんだろうって
生まれてきた意味なんか、もともと解らないけどね。
両親もいなくなった今、僕の存在する意味は、ないんじゃないか。
今いなくなったって、誰も悲しまないし、世の中に何の変化もないし、
僕は、いてもいなくても構わない。どうでも良い存在なんだって思った。」
「伊勢田君…」
「(笑)中学の時の話だよ。今は違うから。」
「…うん」
「死ぬとしても…何にも解らないまま死にたくなかったんだ。だから、生まれてきた意味を知りたくて、色んな本を読んだ。
そしたら、ある日、宗像教授の本に出会ったんだよ。」
「うん」
「授業じゃ、哲学を教えてるけど、思想学が専門なんだ」
「…うん」
「凄く感動して、物凄く会いたくなったんだ。
この人が答えをくれるんじゃないかって思って。
それで、電車を乗り継いで会いに行ったんだ。」
「ぅん…」
「宗像教授は、中学生の僕が訪ねてきて、驚いたみたいだけど。追い帰したりしないで、家に入れてくれたんだ。
僕の話を最後まで黙って聴いてくれて…答えまでだしてくれた。」
「生まれてきた意味?」
「ううん。生きていく意味を」
「生きていく意味…」
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