小説『記憶』

□救済の始まり
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風が、冷たい…。

月…綺麗だ。
この風に乗ったら、
俺も星になれるかな。
もう、ここには居たくないんだ。
受け止めてくれよ…。
星たち…。

シュウは 高層マンションの屋上の端に足を進めた。



「だめー!」

風に混じって
どこからか声がした。
引き止める奴なんていないはずだ

身を前に投げだした


ごつん☆

何かにぶつかった。
以外に早く落ちたのか…

「だめだよぉ。君は後65年頑張らなきゃいけないんだからぁ」

目の前にいるのは

『ぇ…?』

浮いてるし…
白馬?…羽ある

「もう死んだのか。天国なのか」
「天国?違うよ。
まだ死んでないよ。僕が止めたから」

ニコニコ笑う羽のある白馬?
天国なんだ…

「だいたい自殺ってどんなのかわかってるの?」
「苦しみから逃げられる」
「はぁー。本っ当に何にも知らないんだねぇ。
何か辛くて逃げたくて死ぬんだろうけど、死んでから後悔しても遅いよ。」
「死んでから後悔なんかしない」
「するよ。だから止めたんだよ」
「…お前、何者…」
「僕は、君がいつも観てた星の中のカシオペアの神様から頼まれて来た」
「?…やっぱ、もう天国なんだな」
「天国って…。天国は君みたいな死に方したらいけないし、そう簡単にいけないんだよ」
「じゃ地獄…」
「まぁ、この状態で話すのも何だし、もうちょっと真ん中に行こうよ。」
「星になれると思ったのに…。」

ペガサスはシュウを鼻で押して 屋上の真ん中に連れて行った。

「死んだら楽になると思ってた。お前が現れて天国ってあるのかって思ったが…地獄だったのか」
「だから、まだ死んでないよ…。人が来たらまずいし」

ペガサスは一瞬にして小さな男の子になった。

「…変身…した」
「信じられないと思うけど、僕は、さっきも言ったように、君が毎晩観てたカシオペアの神様に頼まれてきたんだよ。君を助けるために」
「…わからない…」
「本当はルール違反なんだけどね。こういうのは。」

ペガサスはシュウの手を握って笑った。

「死んでも無くならないよ。」
「え?。」
「体は死んでしまうけど、心は無くならないよ。残っているよ」
「…」
「無くならないんだよ」
「じゃあ」
「君の今の気持ちは夢と希望に満ちてる?」
「え?…」
「暗くて重苦しいし、冷たいよね。後ろ向きだよね」
「…」
「体が無くなって、心だけの君は、暗くて重い固まりなんだよ」
「…」
「空気だって暖かいと上に行くけど、冷たいと下に貯まるよね」
「…」
「神様のいる天国は、軽くないといけない。君はお先真っ暗な闇の中で
何百年も断末魔の恐怖を繰り返して苦しむ事になるんだよ。
ルール違反なんだけど救済に来たの」
「…死ねなかった」
「死んじゃだめなんだよ!その気持ちで死んで、真っ暗で冷たくて一人ぼっちになりたい?…」

悲しそうな目でペガサスはシュウを見つめた。

「生きてたって、辛いから…」
「じゃぁ、死ぬのはいつでもできるから、ちょっとだけ僕と一緒にいて」
「お前と?」
「うん!!」
「…どうして」
「大丈夫。これならいいでしょ?」

小さな男の子だったペガサスは、一瞬に小さなペガサスのストラップになり地面に転がった。

「…!!」
「君の身の周りに置いてね。誰もいない所では、話しやすい様に姿は変えるから」
「…」

シュウは、ペガサスを携帯電話に付けて手のひらに乗せてみた。
「さぁ…帰ろ」
「…でも」
「君の部屋は君の居場所でしょ」
「…あぁ」
「帰ろうね」

シュウは、星には
なれなかった。
ペガサスは、シュウを
どうするんだ…。

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