小説『記憶』

□生きていく意味
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「お帰り」

母親が声を掛けたが
シュウは、黙ったまま自分の部屋に向かった。

カチャ

鍵を掛けてベッドに寝ころんだ。

シュウの部屋は、散らかっていた。
壊れた物があちこちに転がっていて、殺伐として、空気も澱んでいた。


「随分な部屋だなぁ」

ペガサスは見回して、苦しそうに呟いた。

「ねぇ…カーテン開けようよ」
「嫌だ」
「生きてても、今の君の心は死んでいるよ…」
「うるさい」
「ねぇ。どうして考えないの」
「なにを…」
「今が辛いなら、幸せに変える方法を」
「無理だよ…」
「努力してみた?」
「変えられる訳ないんだ…毎日毎日、金せびられて、持って行かなかったらメールで死ね死ねって何回も言われて…」
「で、消えて相手の願いを叶えようとしたの?」
「え…?」
「相手の思い通りになるのがいいの?」
「…うるさい。疲れた…もぅ黙ってくれ」
「解ったよ」

ペガサスは、布団にくるまって眠ったシュウを見つめた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆
霧の中 シュウは歩いていた。

シュウのクラスメート達が、前方にいた。

「あいつ馬鹿だよな。本当に死んだぜ。まぁ、俺には関係ないけどさ。どこまで馬鹿なんだよ、いなくなってせいせいするよ。
「あんな奴生きてるだけでムカつくんだ。死んでくれてありがたいぜ。」
「まぁ、俺たちには居なくなっても関係ないしさ」

シュウは、体が震えた。

「やっぱり、俺が死んだって、何も変わらないんだ。生まれて来た意味ないんだ…」

「君は大切な人だよ!君を大切に思う人も沢山いるよ。君は、まだ死んじゃだめなんだぁ!!」

靄の中にペガサスが立っていた

「大丈夫。君を強くしてあげる。僕を信じて」


「カシオペアの神様もついてるから、僕を信じて!!」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆
目が覚めたらもう夜だった。

「カシオペア…」

窓を開けて空を見上げた。

「夢だよな。みんな」






「ほんとっ、アタマ堅いなぁ」

「?!!」

振り向くと、ペガサスが男の子になって立っていた。

「ぁ…」

「夢じゃないって。
もぅ、はるばる宇宙から来たのに、いつまでも夢扱いされちゃたまらないよ」

ペガサスは、シュウの手を握って笑った。

「ね!夢じゃないでしょ。僕は、君が強くなるまで、ずっと居るからね」
「…」
「あの…あのさぁ、
お前、さっき俺に、後60年生きなきゃいけないのにって言ったよな」
「65年だよ。君は82歳迄この世で精一杯生きる約束をして生まれてきたんだよ」
「約束って、誰と?」
「神様と」
「え?神様ぁ?」
「君の魂を産んだカシオペアの神様じゃなくて人生計画をされている北極星の神様」
「…良く解らないけど
じゃあ、今の状況も約束の中のものなのか」
「そうだろうね」
「……どうしてだ。…どうして…こんな…」

シュウは、拳を握りしめて、膝を両手で抱えて顔をうずめて涙をこらえた。

「あのね。シュウ」
「…」
「難しいけど聞いてね」
「…」
「人生は一度じゃないんだよ。
…今のシュウの人生の前には何百年か前に別の誰かとして生きた人生があるんだ」
「…前世とかってやつか…」
「うん、その前にも別の人生がある。生まれ変わり死に変わり、魂は学びの旅に出て、帰るべき所にまた帰っていく」
「何度もか…」
「うん、神様みたいな魂になるために、何回も、」
「…無理だろ。どんだけかかるんだよ」
「三万年前のムー時代の魂もいるよ」
「それでも、まだ神様みたいになれないんだろ…」
「どうだろう。もう生まれ変わらなくていい高貴な魂も、
自分で神様にお願いして役立つ為に厳しい環境に生まれる魂もいるから」
「厳しい環境に自分から?」
「そうだよ。神様みたいな魂は死んでから楽しくなんて過ごしてなんかないんだよ。
もっと素晴らしくなって役に立ちたいって。
その逆もあるよ。悪い事ばっかりしてたから、苦しい修行を数百年してから、神様に決められた環境にしか生まれ変われないんだ」
「俺が、そうなのか…」
「シュウは、そこまでひどくないよ。戦争ばかりの国とか、独裁者がいて国民は貧しい国とか、親に毎日虐待される環境とかじゃないでしょ」
「でも今の状況は…。」
「ごめんね。シュウ個人の前世とかは話しちゃいけないから、詳しくは言えないんだよ」
「そうか…。」
「でも、君も、必要だから生まれてきたんだよ。君自身も、自分で向上したくて生まれてきたんだから…。死んじゃダメなんだよ。」
「…俺にも生まれてきた意味があるのか…?」
「うん。ねぇ明日、学校行こうよ」
「行かない…。」
「行かないと、乗り越えられないままだよ。」
「別にいいよ。今は…とやかく言われない方が辛くないから」
「シュウ」
「ごめん。…」
「僕こそ、ごめんね。
急ぎすぎたね。明日、また来るから」
「帰るのか…?」
「うん、一旦女神様に逢いに帰らなきゃ」
「…そうか…じゃぁ。また、明日」
「おやすみ。シュウ」
「おやすみ。」

そう言うと、ペガサスは星空に向かい消えながら飛んでいった。

シュウは 窓からその姿を見送り、そのまま星空を眺めていた。

「星の神様たちか…。本当にいるなら…俺はこれから、どう生きていけばいいか教えて欲しいよ。」

その呟きを星たちは、黙って聞いているように 優しく光輝いていた。

続く

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