小説『記憶』

□記憶のかけら
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カシオペアの女神は、
ケルビム★の報告を静かに聞いていた。

「演劇の方面か」
「はい。前世もその前も歌を歌ったり、語りをしていたのですから、演劇なら他と違い全くのゼロからと言う事にはならないと…」
「芸術の御魂だから、それでいいわね。
元気になり、あの御魂と出会って、天命に新たな発願をしてくれたら…」
「はい…」
「頼みましたよ」

★★★★★★★

「この学校?」
「そう」
「ふーん」

シュウは、ベッドの上で、少年ケルビム★が持ち込んだパンフレットを広げて見ていた。

「どうして、ここがいいんだ?」
「君と良い縁のある人が先生をしているんだよ」
「そうなのか…?」
「君に良い結果を齎す縁だから、厳しくても頑張るんだよ」
「ケルビム★」
「なぁに?」
「ありがとう」

シュウは、ケルビム★のぷっくりとした頬に自分の頬をくっつけて笑った。

「ふふっ。シュウ、
本当に、がんばってね」
「あぁ…」

「あのね、シュウが、学校で酷い目にあったのは、どうして?」
「…天使なのに、聞かなきゃわからないのか?」
「うん、一応ね」

シュウは、ぼんやりとした目で、下を向いてから、ゆっくりと話し出した。

「過去の武将や武士たちさは、国を変える為に頑張って、結局殺されたりしてるよね。愛する人がいるのにさ」
「うん…まぁね」
「どちらかにすれば、よかったんだよ」
「え?」
「国を変えたいなら、ひとりで生きるべきなんだ。恋人や家族なんかつくらなければいいんだ」
「シュウ」
「例え慕われても、応えちゃいけないんだ。戦いで死なないなんて保証ないんだし」
「…どうして、そんな事思うの?
何か…あったから?」
「…いや…。歴史の本、読んでたら、無性に、腹が立って、悲しい気持ちになっただけなんだ。」
「…うん」
「気持ち、押さえきれなくて、先生に意見を求められたら…感情的になったら…あいつら…男の気持ちが、解らないのは、お前は、おかしい。女みたいだって…」
「女みたいか…」

ケルビム★は、悲しげにため息をついた。

「そんなの気にしないでさ。
いろんな人の気持ちを推し量れる君は、やっぱりお芝居をするのに向いているんだよ!ね!」
「そうなのかな…」
「そう、そうなんだよ」

ケルビムは、じっと、シュウを見つめた。

「な、なんだよ」
「ううん、何でもないよ!来週から頑張って通うんだよ!学校は、それからでもいいから」
「うん、なぁ…お前が動くと、環境や親も変わるのか」
「相手の守護霊にお願いしたんだよ。シュウが変わるためだからね。学校の事は自分で頑張るんだよ」
「わかった。ありがとう」


女神は、瞼を閉じたまま考え込んでいるような表情をして、黙ってしまった。

「そうか。相当深くなっているのですね。例の御魂との縁をやり直させるにも、慎重にせねば、また、余計に傷を深めてしまうわ。」
「はい…」
「後、8年か」
「このまま、順調に行くと、彼の存在は有名なものとなり、約束の御魂も知ることになりますが」
「良いかたちで、出会わせてやりたいものだ」
「はい」


「宇佐愁星(うさしゅうせい)です」
「良い名前だね」
「ありがとうございます」
「芝居の経験は」
「…ないです」
「じゃ、どうして、勉強しようと思ったんだ」
「…生まれ変わりたくて…」
「…うん、まぁ、自分じゃない人になれるのが演技だけど、まずは…」

シュウの新しい道が始まった。

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