小説『記憶』

□ファイト!彼方からの応援
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劇団のレッスンは、学校の授業とは違い、みんな真剣で、全身全霊をぶつけながら学ぶ事に、少しずつ面白さを見いだして、灰色だった毎日に、微かに色が入っていった。

初めての経験でありながら シュウの実力は
周囲が注目する程の速さで、伸びていった。
それに伴い、シュウの気持ちも変化して行った。

階段を駆け降りて
キッチンにいる母親に声を掛けた。

「おはよう」
「あら、愁星どうしたの?早いわね。
劇団は夕方でしょ」
「うん、学校…行くよ」
「え?無理しなくていいのよ」
「無理じゃないよ。大丈夫だし。早く、朝ご飯」
「あっ…はいはい」

★☆★☆★☆★☆★
教室に入ると皆がシュウに注目した。
ざわつくことを何も思わない顔で席についた。

授業が始まり、何事もなく1日が過ぎたかのように思えたが、
下校時に何人かがシュウを待ち伏せていた。

「久しぶりだなぁ」
「お前、メルアド変えただろ。頼み事出来なくて困ってんだよなぁ。俺たち」

彼等との悪い縁に対して、シュウは毎晩星に呟いていた。

“俺が前世に犯した罪をお許し下さい。どうか、彼等が俺と同じ罪をこれ以上犯す事なく、幸せになりますように”

「あぁ、親父に変えるよう言われたんだ」
「何?」
「お袋も言ってたよ。うちの子じゃないから、おこづかいはあげられないから、直接ご両親に逢って、ちゃんとお小遣いあげて下さいって言おうかしらってな」

自分達のしていることをしっかりシュウの親に
全て把握されていると知った彼らは、悔しそうな顔で去っていった

「よくもまぁ、出任せ言えたなぁ」

自分でも驚く程、冷静にあれだけの嘘が言えたもんだと感心した。
実際 両親に話したら
メールを証拠として、彼等を訴えかねないだろう。厳格な父親が、学校を休むシュウを叱るのを無視してきたが、真実を告げると、裁判を起こし休んだ分の授業料と慰謝料まで請求しかねない。
仮にいじめが収まったとしても、自分自身恥ずかしくて、結局学校には行きにくくなるから…

「これで、あきらめてくれたらいいけどさ」

気持ちは、夕方の劇団に向いていた
学校を卒業後 演劇の道に進むかわからないが
兎に角、今は、やりがいを感じていて自分の居場所が出来たように思えて、気持ちは満ち足りている。
劇団へ通い出してから、ケルビム★は現れなくなった。
毎晩、星空に向かって、呟いてはいるが…。

「どうしてんだろ。」

シュウは、このまま頑張って卒業して、自分の道を歩く決意をした。

学校で授業を受け、劇団に通う毎日が続いた。
だだ、何か限界を感じていた。

演じるのは、好きだが、俳優を仕事にする事は考えられなかった。
中途半端な気持ちのまま、3月1日の卒業式を迎えた。

登校拒否をしていたが
なんとか卒業できた事を両親は喜んでくれたが、大学に行かないことを不満に思っているようだ。

「劇団養成所を終了したら大学に入りなさい」

父親は、厳しく言ったがシュウは、取り敢えず大学と言うのは嫌なのだ。

「どうしよ…」

目標も持てないまま
演じる事には、やりがいを感じながら頑張っていた時 帰りの電車内で同期の仲間が言った。

「俺、辞めて別の事に挑戦するよ」
「え?」
「先輩みてたら、先が見えないって言うか…。成功してる人も僅かだろ?。親がさ、好きな事させてやったんだから、二年の終了後はなんでもいいから、ちゃんとした仕事につけっていうんだ。確かに大学も行ってないのにハタチ過ぎて親にまるっきしぶら下がってるのも、格好悪いしな。
仕事するにも、今の俺じゃ採用してもらえるか解らないし、勉強しないといけないから、ここは、もったいないけど、秋になる前に辞めるんだ」

シュウは父の言葉を思い出していた。
ここを終了したら、大学を受験しろと言われていたのだ。
大学卒業後には、就職しろと言うに決まっている。
いつまでも、親に甘える気はないが 仕事が何でもいいとは思っていない。
この劇団養成所で、違う自分になれる楽しさや面白さ、やりがいと言う物を知ったが プロになんてなれないと思っていたから…

「俺の道、これで間違ってないよね。ケルビム★」

夜空を見上げる毎日だが、ケルビムは現れない。


「え?」

まだ、養成所卒業も迎えてないのに、オーディションを受けると言う仲間がクラスメートに囲まれて騒いでいた。

「俺たち、まだ、プロになんかなれるレベルじゃないだろう?」
「バカ!棒読みのアイドルやお笑いに比べたら、マシだろ」
「あいつらは、客寄せパンダだろ?そんなクオリティの低い作品のオーディション受けたくないぜ」

皆 口々に意見を言う。

「だけど、自分を売るチャンスだぜ。」
「チャンスか」

シュウは、芝居のオーディションにあまり心が動かなかった


「俺、声優の勉強中だから、アニメのオーディションうけるんだ」

一人が言った言葉にシュウは興味を持った。

「声優?アニメ?技術が違うだろ?」
「そう、だけど役の幅は広がるぜ。年齢関係なくいろんな役もできるし声が良けりゃ2枚目も出来る。ストーリーも俳優に比べたら幅はあるし」

シュウの心は、凄く動いた。

「お前、どんな勉強してるんだ!!」
「えー、そりゃぁ、いろいろな。まぁ、声とかも変えられたら、役の幅はもっと広がるし、
1人6役とかできる人もいるんだぜ」

シュウは、一瞬に、卒業後に改めて声優学校に行く事に決めたのだった。

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