小説『記憶』

□近づく運命の人への道
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卒業後、両親を説得して、声優学校に通い始めたシュウは、毎日無我夢中で技術を磨いていた。

流れるように月日が過ぎていき声優学校も卒業して、所属プロダクションも決まり、いろいろなオーディションをうける毎日も充実していた。

制作サイドからの依頼で仕事につき始めて
気がついたら、3ヶ月先までスケジュールが埋まっているほど忙しくなっていた。

「明日は〜」

マネージャーなんて付いていないから、スタジオまでの移動手段も自分で確保しなければならなかった。
事務所で来月のスケジュールを確認している時、

「宇佐さん。」

後から声をかけられて振り向くと
後輩の熱田誠志郎だった。

「ん?。熱田君か」
「明日、同じドラマCD収録でしょ。」

「そうだな」
「俺の車で一緒に行きませんか」
「車なら、自分ので行くよ」
「エコですから、一台で行きましょうよ。久しぶりにゆっくり話したいし。」
「ふっ…まぁ、いいよ」
熱田が朝にシュウを迎えに行く予定になった…



ケルビムは、不安な顔をしていた。

「女神さま…」
「運命の時ね」
「この流れでは、出会うのが良い出逢い方なんですよね…?
大丈夫ですよね?」
「ふふ、大丈夫よ」

女神は、にっこりと笑った。

「ここからよ、あなたが、注意深く見ていなければいけないのは」
「はい…」

「お疲れ様でした」

各自が迫真の演技を競った感じの収録だった為、予定より早く終了した。

「スムーズにいけましたね」
「そうだね」
「宇佐さん、この後予定なかったら、飯いきませんか」
「ああ、いいよ」

熱田とは、同じ作品に出ることが多く、事務所の中でもよく話をする関係である。
暇な時代も、よく飲みに行ったりもした仲だから、もう少し、ゆっくり話したいと思った。

熱田との食事は、楽しいものだ。
終始笑いっぱなしで、仕事仲間でここまで気の合う人が現れるとは思っていなかった程、気持ちのいい付き合いができる奴
だ。
店を出て勢い良く発車した車は、家路に向かう道を結構な速度で走っていた。

「熱田君、ちょっと飛ばし過ぎじゃないか?」

シュウは、ふと不安になった。

「大丈夫ですよ!こんな時間は検問もしてないでしょ。捕まりませんて」
「いや、そうじゃなくて」

道が空いているので一層速度を上げる。

「なあ、170こえちゃったよ」
「大丈夫。ここのカーブが最高…」

「あ…」

一瞬だった。
下りカーブでハンドルの切り方が足りずに、車はガードレールに勢いよく激突した


「ぅ…」
「…ぁ」
シュウは、意識が遠くなって…。



ケル…ビ…。

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