小説『記憶』

□手繰り寄せられる運命の人
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「ご覧ください」

病院の一角で シュウと熱田は担当者と母親に志織のブログを見せられた。
呼びかける志織の文章と数百と言う書き込みと
「今日、宇佐さんと熱田さんの為のお百度しました」と言う沢山の報告
に、驚きと感動で体が震えたシュウ。


「俺達が危ないって聞いてすぐに、始めてくれたんだ」

「俺のせいなのに…責めないで…こんなに…こんな事してくれたんだ…」
「熱田君…」

自分達の命は、志織の呼びかけと呼びかけに応えたファン達の連日の祈りにより救われたのだと思うと、涙が止まらなく号泣してしまった。
志織の文章とファンのメッセージが涙で霞んで読めなかった。

担当者の三輪は、穏やかだが、厳しい表情で
二人に、話しかけた。

「退院できましたら、まず、仕事関係先には、謝罪に行きましょう。大変なご迷惑をかけましたから。
その後に、志織様とファンの皆様にも場を設けてこの度の謝罪と感謝の気持ちをお伝えしましょう。その為にも、完全回復の為リハビリも頑張って下さいね。」


事故の為、ゲーム関連やそのドラマCD以外の週一番組は全て新しい声優に変わっていた。
退院しても、暫くは謹慎処分同様に時間が空いている。
「はい。…宜しくお願いします」

熱田が、遠慮がちに言った。

「全ての段取りをお願いします」

シュウは、三輪に頭を下げた。

「わかりました。」

2人のリハビリが始まった。
ブログでは、完全回復と退院と復帰の祈願の呼びかけがされ、それに応えるファン達のメッセージと祈願報告が連日数百通綴られた。

「皆が祈ってくれているから」

2人はリハビリに、挫けることなく、苦痛に耐えながら頑張った。


退院日が決まり、謝罪安行とファンへの謝罪の会の日程も組まれた


「あれだけの事故で、通常なら、助かったとしても、なんらかの後遺症が残るもんですが、本当に奇跡的な回復です」

医師が、元気になった二人を見つめて語った。

「歩行困難や言語障害が残る可能性だってありましたから」
「え…」
「…」
「本当に、運が良いですよ」
「言語障害…」
「……」

改めて、皆に感謝したシュウと熱田だった。

志織の元に三輪からのメールが届いた。

★志織様
お陰様で宇佐と熱田は
再来週にも退院できる事になりました。
記者会見の前に、志織様とブログの訴えに答えて祈願をして下さった皆様に直接お礼を申し上げたいと存じます。
宇佐と熱田のファンの集いを異例ですが、事務所主催で開催させて頂きたいと思います。
お祈りをして下さった方には是非来て頂きたいので志織様よりブログでお伝え下さい。
日程は……★


「退院決まったんだ」
「ママ、どうしたの」
「宇佐さん達が治って退院するんだって」
「本当に?また、うさたんのアニメ見られるの?」
「それは、まだもうちょっと先かな。」
「ちぇ」
「まあくん、うさたんに逢えるけど、行く?」
「逢えるの?」
「うん、一緒に行こうね」
「やったぁ。うさたん♪うさたん♪」


★★★★★★★★★★
「そろそろ、彼のそばに行ってきます」
「本当に危機迫るまで待ちなさい」
「…はい」
「ケルビム、あまり、俗界な気持ちを持つと彼は駄目な御魂になりますよ。
天使らしいビジョンを無くさぬように」
「申し訳ございません」「銀河のルールから逸脱すると天使失格になりますよ」
「はい…」

魂の進歩向上を考えて厳しく、あえて試練を与えるのが女神である。
楽な道を叶える事は、結局は、魂の成長を阻止してしまうのである。
そう言う貴く先々迄を思ってのものであるルールに沿って天使も守護霊も動いている。

「チャンスは今世が最後です」
「来世の300年後は慈悲慈愛がある光輝く御魂しか生まれ変われない。
それ以下の怠った魂はその中身に相応した世界で修行を続ける事になるわ。中有界レベルなら楽しく修行もできるわ」
「でも、彼の場合は、今回を逃すと、今のままでは、絶望感を再び抱いて…」
「そう、本来の天命から相当落ちてしまうわ。役割がある御魂なのに。ケルビム、」
「はい」
「頼みますよ」

★★★★★★★★★★
謝罪と感謝の会には、全国から沢山の乙女達が集まった。
シュウと熱田の復活を祝い 二人の感謝の大握手会で幕を閉じた。

菊田志織は、子供の真澄と一緒に事務所の人間の誘導で楽屋に招待された。

シュウは、菊田志織を見た途端に、心がざわざわした。

『え…なんなんだ…この感覚は』

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