小説『記憶』

□伝えられる遥か彼方からの記憶
1ページ/1ページ

「今の君じゃない君が、求めてたんだよ。あの人を」
「…前世の?」
「…そう、ずっと、ずっと前からの君の思い」
「ずっと前から」
「うん」
「いつから?」
「それは…」
「…言えないんだったよな…」
「うん…。あのね…僕が遣わされたのは、君を幸せにする為だけじゃないんだ。君を、本来の天命に導くために女神様に遣わされたんだ…」
「…本来の天命…?」

「ねぇ…その気持ちから、何が考えられる?」
「…恋…」
「そうだね…そして、君が、どうしても嫌だと思うのは」
「戦いとか、別れとか…」
「うん。それで?」
「…もしかして、俺が、戦って死んで、結ばれなかったのか…」
「…ううん…」
「…えっ」
「あの人が、国の為に戦って死んで、君は残された」
「じゃあ…」
「あの人が男で君が女だった」
「……たった一度の前世の悲恋で、こんなに苦しい気持ちが残るのか…」

ケルビムは、ゆっくり
シュウに伝えた。

「…一度じゃないんだ」
「…ぇ」
「何回も…君は、あの御魂に取り残されたんだよ」
「何回も…」
「うん…初めは、仲良しの双子の命(みこと)だった。天使ウリエルの守護の元に人々を救うために、
歌を歌ったり語ったりしながら、天の歓喜を伝える日々を送っていた」
「歌ったり語ったり…」「だけど…」
「なに…」
「あの御魂は、森の中の湖に行った時に、出会ってしまったんだよ」
「誰と…」
「…大天使★ミカエルに」
「ミカエル…?」
「愛と義の心で世の中を素晴らしくして行く役割の人を導く天使。
あの御魂は、もっと大きな形で人々を幸せにしたいと願ったから、★ミカエルが現れて、神使の天命を授けたんだ。
つまり…君と天命が違うようになった」
「それは…?」

ケルビムの話を聞きながら、シュウはずっと泣いていた。
どうして涙が溢れて止まらないかは、わからないが、取り乱す事はなかった。

「君と歌ったり…語ったりする事を辞めたあの御魂は…学問、経済、政治、芸術の才能を磨く努力と社会に貢献する行いの為の努力を始めた。君は、いつも一緒にいて、同じ天命を志して「一つ」だと思っていた二人の気持ちが、離ればなれになったことを悲しんで
あの御魂の後を追って歩く毎日だった。
日々進歩向上して行くあの御魂と…君の魂のレベルは大きな差がついてしまい、
とうとう…会話も考え方も噛み合わなくなった。
すれ違いのまま、あの御魂は、ミカエル★天使の導きで君の元を去て行った…」
「…取り残されのか」
「…うん。最初の…すれ違い」
「…その後も?」

ケルビム★は、ゆっくりゆっくり話した。

「…三万年前のムーの13代目の王の元、神使としてあの御魂は、世界中の迷える御魂を救済に生きた。
君は、今度こそ一生一緒にいようと…女として生まれ、恋に堕ちたが、救済の旅で離ればなれになってしまった」
「…そうやって…いつもすれ違ったのか」
「うん…いつも、あの御魂は、愛と義の心で世の中を救うために生きて…君は、一緒に行き貫く為に必死にあの御魂を求めた。だけど…」
「取り残された?…戦いのせい?…」
「そうだね…最近では、日露戦争で国の為に戦った。部下を大切にする、あの当時には、珍しい上官だった。君は、日本で、帰りを待っていたが」「…」

シュウは、大声で泣き出した。

「シュウ…君は、ずっと間違ってきたんだ。一緒に生きるのは、男女になって恋をして結ばれる事じゃないんだよ。
生まれ変わる前に、そこをきちんと約束して生まれてきても…君は、あの御魂に出会うと、天命を忘れて
追いかけてしまう。」

ケルビムは、号泣するシュウを抱きしめて頭を撫でた。

「君の御魂は、天命を忘れてなんかないのに、
魂の記憶が、一緒になれなかった悲しみを、満たそとしているからなんだ。でも、それを乗り越えて前に進まないと、君は再び同じ間違いをしてしまう…」
「じゃぁ…あの人はなぜ…今回は、結婚しているんだ…俺は家族として生まれてくる事も許されてないのに…」
「…家族になるにも天命があるんだよ」
「…それじゃぁ…」
「夫は、三千年前のダビデ王の精鋭隊の別部族仲間だったり…Stフランシスの修導師仲間だった…戦いのない今世は、あの御魂の天命を支える役割を発願して生まれてきた。子供は、あの御魂が、ずっと男だったから、母性愛の学びの為に神様が与えたんだ。
子供は、あの御魂の元で今回の神使の役割を学び役立ちたいと生まれてきた…千数百年前の縁の御魂だよ…」
「…」
「君のような私心はないんだよ」
「…あの人の天命ってなんだよ…今の世の中で何があるんだ…戦いなんてないのに…」
「こんなに、危機的な状況なのに、わからないんだね。」
「わからないよ!!…」

シュウ…絶望の気持ちに包まれた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ