小説『記憶』

□呪縛と意志
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志織は、シュウの両頬を両手で優しく包んだ。

「ぁ…」
「いつまで、過去に振り回されているの?あなたは、宇佐愁星さんとして生きているんでしょ?過去の誰かさんの、怨みと悲しみを晴らす為に生まれてきたんじゃないはずよ」

優しく、優しく、子供に伝えるように、真っ直ぐ見つめて志織は伝えた。

「過去世で、私があなたを置き去りにして、あなたを傷つけたとしたら、本当にごめんなさい。辛くて苦しかったでしょうね。でも、過去のあなたは、どうして私と同じ様に生きようとしなかったのかしら。」
「ぇ…」
「私が進んだ道には、行きたくなかったけど、二人が居た道に連れ戻したかったのかしら。
…どんなに仲良しでも、心は自分の思い通りには、ならないのよ。
戦いだって、家族を守る為だったかもしれない。国から強制的に行かされた事だってあるはずよ」

シュウは、志織をしっかりと見つめた。

「戦いに出る方は、喜んで戦ったと思う?
死を覚悟して愛する者を残して、飛び交う矢や玉の中必死に戦って…。
一人で死んでいく時は、どんな気持ちだったでしょう。」
「…ぁ」

シュウの、瞳から涙が溢れ出した。
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