小説『記憶』

□原点からの和解と飛躍【最終話】
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撮影の待ち時間、先日の丸尾京香とのことを考えていた。

「はぁ〜。どうしょうか…」

好きだと言われて、その気持ちを受け止める事もないまま…あの状況になっていたのは。

「でもって…覚えてないし。最低だよな」

携帯電話が、マナーモードの為ブルブル震えて着信を知らせた。
液晶画面を見ると、熱田からだ。

「もしもし」
「あ!宇佐さん。お久しぶりです。この間出たCD、凄い売れ方してますよ。」
「へー。そうなんだ」
「はぁ〜。相変わらずですね。
あのぉ。昨日仕事で丸尾京香さんにあったんですけど」
「…ぅん」
「宇佐さんの連絡先聞かれたんですが、教えちゃっていいですか。
一応、了解とってからと思って」
「…連絡先?」
「(笑)なんか最近モテモテですね」
「相談か何かだろ。多分。以前もアドバイスして欲しいって言われたから」
「え〜。俺には相談してくれないっすよぉ〜。宇佐さんには相談するんですか。
えへ。それって、きっかけ作りの1つですよ。」
「からかうなよ」
「いや、そうですって。やっぱり、宇佐さんは、人や世間に興味無さ過ぎですよ。

ファンレターだって、全くチェックしてないんでしょ?ファンとか周りの人達にもっと目を向けて、大切にしてもいいと思うんですけど。
じやぁ、彼女に連絡して教えておきますから」
「あっ…いや。…俺から連絡するよ。丸尾さんの連絡先教えて」
「あれぇ?(笑)人気No.1かわいこちゃん声優には、いきなり積極的ですね」
「からかうな。しつこいぞ」
「ぷっ。じゃ。すぐに送信しますから」
「サンキュ」

電話を切って、すぐに京香の連絡先がメールで送られて来た。

メールにしようかと思ったが、いざ文章にすると、何をどう切り出していいのか解らなくなった。電話をかけてみた…が
なかなか出てくれない。京香にしてみたら、知らない番号なのだから仕方がない。

10コールして切ろうとした時、

「…はぃ…」

京香の声がした。

「あっ。あの…」
「…ぁ。宇佐さん?」
「ぅん…あの…この間はごめ…」
「しおりさん。」
「え?」
「しおりさんとは、どうなりましたか。…しおりって人でしょ?宇佐さんの好きな人…。」
「…好きな人じゃ…ないよ」

シュウは、この間見た夢を思い出していた。

『ミッシェル。行かないで!』
元は、そこだったのだ。
「でも…この間」
「…この間って…」
「うちに来た時です…。宇佐さん、ずっと泣いてて…」
「…ぅん…」
「…泣きつかれて、眠っちゃった後」
「?!泣きつかれて眠った?…」
「それで寝言で…しおりさんって…涙流して何度も名前呼んでました…」
「…」
「もぉ。お母さんに逢えなくて泣いてる子みたいでしたよ!ずうっと泣いてたから、私のブラウスも宇佐さんのシャツも涙でぐしゃぐしゃになっちゃったし…。」
『だから…シャツ…着てなくて…』
「私…宇佐さんのお母さんじゃないんですから。…もお!本当に私より3つお兄さんなんですか」
「ぷっ…そうか。そうだったんだ。(笑)」
「何がおかしいんですか」
「(笑)いや…俺は、てっきり(笑)無意識に京香ちゃんに、何かしたのかって…覚えてないし。(笑)」
「あのね〜宇佐さん。泣きながら他の人の名前呼んでて、そんなことしてきたら、私宇佐さんの事ボコボコにしてますよ」
「…うん…そうだね。ごめん」
「しおりさんって。好きな人じゃないのに、どうして?」
「…今度ちゃんと話すから」
「わかりました…」
「じゃあ」
電話を切って、ほっとしたシュウだった。
パニック状態で、京香に何かしてたのなら、申し訳ないと思っていたのだ。

「ひと安心…」

シュウは、子供みたいだと怒りながらも心配してくれる京香の気持ちをきちんと考えて答えを出さないといけないと思った。
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