小説『記憶〜分岐点からの道』
□乾ききった魂
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シュウの唇が、志織の瞼に優しく触れる。
「…」
「そんな目しないで。
俺は、志織さんとずっと一緒にいたいだけで…嫌われたくないから…乱暴には…しないよ」
シュウは、掴んでいた志織の手を自分の頬に当てた。
「震えてるね……ごめんね…」
シュウの目から、涙が零れ落ちた。
「宇佐さん…」
掴まれていない側の志織の手が、シュウの涙を優しく拭った。
「しおり…さん」
「…あなた色に…」
「ぇ…?」
「染まるから…もう…泣かないで」
シュウの腕を掴んで、
背伸びした志織が、優しくキスをした。
「ぇ……」
「私には…あなたとの前世の記憶はないわ。…でも…今の宇佐さんには、泣いて欲しくないの……すき…だから」
「…すき…って…」
決意したような真剣な志織の目を、シュウは見つめた。
「私は、今目の前にいる…宇佐さんが、好きだから…。
私に逢う度に悲しそうな顔して欲しくないの…だから…」
「…そうだね。俺との…事、覚えてないし…。いつも、気持ちが見えなかったから…。
俺と熱田の事で、あんなにしてくれていながら、いつも冷静で静かで…。
だから…悲しかった。きっと、いつもそうだったんだろうって、いつも、俺ばっかりが追い求めて、あなたは優しくするけど受け止めない…。」
「気持ちを…出しちゃいけないことも、あるのよ…。」
「…うん。でも…今日は…どうして」
「あなたが、何万年も同じ過ちを繰り返したのと同じ…。私も、何万年もあなたを泣かせたと言う過ちを繰り返したのかもって…。
きっと、今の私と同じ…。」
「同じ…?」
「自分の気持ちを偽って、あなたを泣かせたのかもしれない…。」
「偽って…泣かせた。」「それを…使命感とかで封印したんだと…。」
「じゃあ…。俺たちは」「…うん。」
シュウは、喜びいっぱいに微笑んで、志織を抱きしめ優しくキスをした。
ミシ………ミシ…………。
シュウの体の奥底から音がする。
二人には、聞こえない音がシュウの体の奥底に広がる。
「好きだよ…。大好きだよ。」
甘くすがる声に、志織の力は抜けていく。
「もう…離さない…。」
「…離さないで」
遥か過去からのすれ違った気持ちを取り戻すように、何度も抱き合う二人。
ミシ………。
乾ききった傷だらけの魂に、いきなりそそがれた熱い愛情。
渇きを潤す為に、何度も何度も求められる潤い…。
ミシ………。
「しお…り…」
「シュウ…」
求めても…求めても…。なぜか 満たされる事はなく…。
「はぁ…。」
「ひとつに…なり…たい…のに…なりたい…のに」
…ミシ…。