小説『記憶〜分岐点からの道』
□アネモネ
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カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでくる。
「…帰らなきゃ…」
「…まだ…だめ」
「もぅ…堪忍して…」
何度抱いても、満たされない魂…。
体は重なり合っていて、気持ちも通い合っているのに…。
「…仕事…」
「…まだ…時間…あるから…」
「…眠らないと…瞼…腫れてるよ」
「…眠ったら…帰るでしょ…まだ…帰さない」
シュウの甘いキスが、志織の意識を飛ばしてしまう。
…ミシ…
傷だらけの乾ききった魂が、潤いを求めても、潤いは一瞬にして蒸発してしまうように魂に染み込まない。
潤いで満たして傷を修復する事はなく、反対に亀裂が増えていくようだ…。
ミシ…。
抱けば抱くほど、愛しくて悲しくなる。
「どうして…。ひとつになりたいんだ…」
「シュ…ウ…」
ピピピ…。
気が付いたら、携帯のアラームがけたたましく鳴っていた。
ダルい体を起こし止めた。
横でぐったりと眠る志織に優しくキスをして
シュウは、仕事に向かった。