小説『記憶〜分岐点からの道』
□永遠
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携帯の着信音が、鳴り響いている。♪〜
カーテンから洩れる朝の光は、毛布にくるまりグッタリして動かないシュウを、包み込むように照らしていた。
鍵もかかっていないままの部屋に、駆け込んだ志織は、ゆっくりとベッドに近づいた。
力無く座り込み、シュウの髪にそっと触れた途端に、シュウが、ゆっくりと目を開いた。
「…し…おりさ…ン?」
「…うん」
「…来て…くれた…」
「逢いたかったから…」
「…嬉しい…」
儚げに微笑んで、ゆっくりと起き上がって志織をやんわりと抱いた。
「…シュウ?」
「…ずっと愛されたかった。…いつも、一緒で。いつも、どんなときも、志織さんに…愛される存在でありたかった」
「…うん」
「…ずっと、二の次だったから…」
「…ごめんなさい。」
「でも…今日は、来てくれた。」
「…私も、一緒にいたいの。」
「一緒に…」
「離れたくないの!」
「…志織…さん」
「誰よりも愛してる」
「…誰よりも?…」
「そう、誰よりも!」
「だれ…より…も…愛してる…志織さんが…」
「…うん」
「…俺を…」
「うん…」
志織は、そっと優しいキスをした。
カシャ…カシャ…カシャ…カシャ…
いっきに、注ぎ込まれた甘い愛情に…
カシャ…
ヒビだらけの魂は、耐えきれずに、崩れ落ち始めた
カシャ…サラサラ…
「…志織…さ…ん…」
「うん?」
志織の耳元で、優しく幸せに満ち足りたシュウの声が囁かれた。
「…ぁ…あい…し…てる」
「うん」
「…しあわ…せ」
「うん」
「…ぁ…り…が…と…」
優しく微笑んだままのシュウの瞳は、ぼんやりと窓の外の空の遥か彼方に向いていた。
サラサラ…サラサラ…サラサラ…
キラキラ…キラキラ…キラキラ…
ユラユラ…ユラユラ…ユラユラ…
キラキラ輝く粉々の魂のかけら達は、青い空へ吸い込まれていく。
上空には、涙を浮かべたペガサスのケルビムが待っていた。
「…シュウ…逝くよ。」
ケルビムは、かけら達をカシオペアへと導いて消えながら飛んで行った。
「シュウ…?シュウ?
どうしたの?…どうしたの?…ねえ?…」
遠くを見て、微笑んだまま動かない、シュウを揺さぶって、志織は必死に呼びかけた。
キラキラ輝く粉々のかけら一つが、慰めるように髪に落ちた。
「シュウ!!」