小説・陽光に包まれて

□しょっぱいはちみつ
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結局講義後は、他の生徒の人混みで、伊勢田君を見失った上、急いで下校したのか彼は校内にいなかった。
「帰っちゃったのかもね。バイトあるし」
「バイト?何してるの?」
「家庭教師らしいよ」
「そうなんだ。あれ?でも、亜依子詳しいね」
「だって、服装以外は合格なんだもん。知りたいよ。素敵なんだから!」
「健太郎に言っちゃお…」
「言っちゃだめ!清良、性格悪っ。あんたこそ、涼介とけじめつけなよ」「別に、まだ、伊勢田君を好きってわけじゃないし、涼介…まだ、好きだもん」
「三年間、良いように扱われてるのに…ばかよ。清良」
「うん…バカみたいよね。」
「…さっ、健太郎んちに行こっ。ぱぁって騒いじゃおう」
「そうだね」
伊勢田君の、春みたいな瞳に突然癒されて、心地良くて気になったけど…凍りつくけど、私はまだ涼介が…好き。
すっぱり捨ててくれたら諦められるのに、時々優しく抱きしめてくれるから…。
そんな事を思いながら、健太郎のマンションに2人で向かった。


「あ…」
マンションの廊下で、亜依子が、足を止めた。
「何?どうしたの?」
「前…」
「え?」
亜依子が見つめる前方に、涼介がいた。女の子を二人連れて…。
「清良か、お前も健太郎に誘われたんだ。」
「…。」
黙っていたら、物凄い形相で、亜依子が涼介に走り寄って行ったんだ。
「…亜依子」
「あんたねぇ!清良の事はっきりしなさいよ!!」
「はっきりってなぁ。今から楽しく過ごそうってのに。お前、つまんなくしてどうすんのさ。せっかくお前の彼氏の健太郎が、設定した打ち上げを、始める前にぶち壊すつもりか?」
不意にマンションのドアが開いた。
「あぁ。来たのか。もう、3人来てるんだ。入れよ」
健太郎…。私達の様子、分かってるのかな。
「涼介…誰か連れてくるって言ってたの…誰だよ。その2人」
「あぁ。女の子いっぱい居た方が楽しいだろ?」
「お前さ。清良が…」
「じゃあ、上がるぞ」
涼介は、健太郎も無視して、女の子達と部屋に入って行った。
「清良…」
亜依子が私を困ったように見つめて言った。
「帰ろうか。」
「え…っと。亜依子は、健太郎と一緒にいたらいいじゃない。私は…帰るから」
「私も、帰る」
「え?亜依子帰るのか?いろよ」
健太郎は、困った顔をした。そうだよね。
涼介は、訳わかんない女の子連れてきてるし、自分の彼女には、いて欲しいよね。
「私、清良と一緒に居てあげたいし」
亜依子…。嬉しいけど。健太郎が可哀想だよ。全部、涼介の責任だから、健太郎にも亜依子にも、関係ないから。
「亜依子、いいから。私、すぐ家に帰るし。大丈夫だからね」
「でも」
「本当に、大丈夫だから。」
「でも。…じゃあ。また電話するから」
「うん…いいよ。また明日」

健太郎のマンションを後にして、帰ると言ったけど…。
涙が溢れてきて前が見えない。悲しくて、辛くて足に力が入らなくなった。
昨日、電話くれた時出れば良かったのかもしれない。
涼介…もう、嫌いになったんなら…そう言って欲しいのに。
どうしてなの…。
私は…涼介の何なの…。「…清良」
その声に、顔を上げると見覚えのある靴が目の前にあった。
「やっぱり心配で、来てみたら…こんな所でしゃがみこんで泣いてるんじゃん」
同じ様に、しゃがみこんで見つめる亜依子…。
「…あいこ…」
「清良…もぅ…強がっちゃだめだよ。ばか」
優しく肩を抱いてくれた亜依子。ごめんね。
不器用だけど、亜依子は私の事を大切に思ってくれてるんだね。ごめんね。


公園のブランコに、2人で座って温かいココアを飲んだ。
亜依子は、いつもと違って何も話さない。
私が話し出すのを待っているみたい。
「…ありがとう」
「ううん」
「…健太郎、大丈夫?」「うん。大丈夫だよ。…清良」
「ん?」
「会いに行こ」
「え?」
「その、マフラー。今から届けに行こう」
「ぁ…」
そうだ。伊勢田君のマフラー 鞄に入れっぱなしなんだ。明日渡そうと思ってたんだけど。
「でも…私家知らないし」
「私知ってるから、行こう」
「でも」
「行こうよ。清良」
亜依子は、私の手を引くと大学の近くの通りへと歩き出した。
「どうして、家知ってるの?」
「伊勢田に興味がある女子に、付き合わされたのよ。自宅調べに」
「…何それ」
「一回だけだから。」

伊勢田君の自宅は、大学の近くの古いアパートの二階だった。
「明かり、付いてるね。じゃ。私は帰るから、清良頑張ってね」
「え?亜依子帰るの?」「うん。じゃあね。」
♪ピンポーン
亜依子は、玄関のチャイムを押して直ぐに帰ってしまった。
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