小説・陽光に包まれて

□Kikkake No Itami
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「強くなりたかった。自分で自分を救える、強い人に。そして、人も救えるようになりたい。宗像教授…みたいに。」

その言葉に、宗像教授は微かに笑って、伊勢田君は、宗像教授をしっかりと見つめた。

「僕は、貴方のようには、まだなれないですが…教師になっても、いいんでしょうか。」

初めて聞いた、伊勢田君の目標。
やっぱり、宗像教授を尊敬しているんだ。

「教師はね、完成された人がなるんだったら、誰もなれないよ。自分も向上する気持ちもあり、子供達を楽しく、且つ正しく向上しようと言う気持ちに、導けるかが大事だね。特に小学生は、楽しくないとついて来ない。」
「はい。」
「子供達と一緒に、教師も成長していく。自分が導いてやるんだなんて、傲慢な気持ちは、決して持ってはいけない。子供達は、見抜いてしまうからね。
君は、大丈夫だよ。ただ、本ばかりの学問だけでなく、卒業まで、しっかりと色んな経験も積むんだね。」

宗像教授は、伊勢田君を見つめてから、私を見てにっこりと笑った。
ん?私に協力をしろって事かな?
色んな経験か…。やっぱり、亜依子達に紹介した方がいいのかな。
友達が増えた方が、いろんな経験も出きるから。
後で、伊勢田君に聞いてみよう。嫌だって言ったら、仕方がないけど。

「どうかした?住吉さん。」
「え?…ううん。なんでもないよ。」
「もう直ぐ、三講目の授業が終わるよ。次の授業は?」
「あ…フランス語です。」

「僕も児童心理学が…。教授また明日来ます。」
「はい。また明日」
「ありがとうございました。」

教授室を出て、廊下を並んで歩く。
まだ、一年以上先だけど、伊勢田君は教師の道を歩いていく。
私は、まだ決まってない。
いろんな物を抱えながらも、前を向いて歩こうとしてる彼と同じように、私も前を向いて歩きたいから、早く進路を決めないと…。

「住吉さん。放課後、用事ある?」
「今日の放課後?」
「うん。」
「亜依子に、飲み会に誘われてるんだけど、伊勢田君が用事があるなら、断っても大丈夫よ。」
「それは、君の友達に申し訳ないから。明日の放課後は、空いてる?」
「明日は、空いてるよ。どうして?なんの用事?」
「別に…。たまには、誰かと…夕ご飯食べようかなって…。」
「夕ご飯?…そうだね!!伊勢田君とは、大抵ランチだもん。夕ご飯もいいかも。わぁ。楽しみ。」
「じゃ。また。」
「うん。」

私達は、それぞれの講義室に別れた。

フランス語の授業は、亜依子や健太郎と一緒だった。

健太郎は仮眠の為に、亜依子はお喋りの為に、私達グループは、目立たないような席に固まるんだけど…。
試験…大丈夫なのかな。

「清良。また、伊勢田と消えてたの?いつも、2人でどこで何してるのさ。」
「本読んでるだけよ。宗像教授の部屋で。」
「教授の部屋?じゃあ。3人で?」
「さっきは、3人だった。」
「教授が、居ないときは2人きり?」
「まぁ、そうだけど。」
「ヤバくない?」
「ヤバくないって。」
「だって、2人きりでしょ?」
「…彼は、その辺の男子とは違うの。」


「女と2人きりで、何も思わないわけないだろ。」

寝ていたはずの健太郎が、机に顔を伏せたまま話に加わってきた。

「伊勢田君は、そんな人じゃないよ…。」
「俺達は、お前の心配してるんだぞ。」
「え?」
「お前の言う通り、伊勢田は、真面目で優しい奴だよ。他人の嫌がる事は、一切しない。お前にも優しい。清良?」
「ん?」
「本当に、付き合ってないんだな。告られてもないんだな。」
「…ないよ。」
「だったら、2人きりになるのは、よせ。」
「どうして?!」
「まだ懲りてないのか!お前。それじゃ涼介の時と同じだろ。あいつの時も、お前と付き合いたいとか、彼女になってくれとか言われないまま、部屋に誘われて、抱かれたんだろ?」
「…。」
「抱かれたから、彼女だ、恋人だと思って。結局都合の良い扱いだったじゃないか。」
「伊勢田君は、涼介とは違う…。」
「伊勢田も、男だ。」
「大切な…親友だよ。」
「大切な親友なら、なお2人きりでいるな。万が一の時に、傷つくのは、お前だろ?」
「清良。もし、伊勢田の事、マジ好きになったら、あたしに言ってよ。あんたが、伊勢田を好きなのに、親友関係のままで2人きりでいるのが辛くなったら、私達が支えるから。ね。」
「うん。」


「そこ!喋るなら出て行きなさい!」
「すいません。」
「わっ…。」

亜依子と健太郎、心配してくれてたんだ。ありがとう。でも、大丈夫。
伊勢田君は、涼介みたいな事ができる人じゃないから。

「清良。」
「え?」
「飲み会で、ゆっくり話そ。」
「うん。」

健太郎は、また眠ってしまい、亜依子と私は、講義に集中する事にした。

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