小説『記憶』

□変化と試練
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『最近、志織さんにメールも送れてない。電話…。ダメだ。声を聴いたら、また、あの人を責めてしまう…。俺が、乗り越えなくちゃいけないんだ。困らせるんじゃなくて、俺の声で、セリフや歌声を通して、幸せにしてあげたいんだ…。』

そう思うと、胸が温かくなった。
無理やり、一緒にいたいと苦しんだ思いとは違う。
自分のできることで、間接的でもいいから、幸せにしてあげたいと思う…そう思うだけで、温かな気持ちになって、嬉しいシュウだった。

「ドミンゴのCDでも買いに行こうかな」

1階に降りたエレベーターの扉が開くと、
建物の入り口には、
女性声優人気No.1の丸尾京香が立っていた。
彼女は、シュウの姿を見つけると、にっこり笑った。

「京香ちゃんも、ここで仕事?」

時々、仕事で一緒になる京香は、三歳年下で
現場では、シュウに仕事の相談などをしてくる、可愛い妹みたいな存在だ。

「いえ。今日は、午前中に終わりました。宇佐さん…もう、帰るんですか」
「うん。早く終わったから、ちょっと買い物でもしようかと」
「…私も一緒にいっていいですか」
「え?」
「…だめですか…」
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