小説『記憶』

□原点からの和解と飛躍【最終話】
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「ただいま!」
「お帰り」

真澄が弾むように帰って来て、志織は優しく笑って迎えた。

「ママー!うさたんのCD凄いんだって」
「宇佐さんのCD?
あれ?再来週にレコーディングするからって聞いてたんだけど、もう出たの?」
「ちがうヨォ、あつたちゃんと一緒の【キャラメルシーズン】ってアニメのCDだよ」
「なぁに。そのアニメ」
「あんまり解らないんだけど、クラスの女の子が見てるヤツでね。うさたん、すっごい格好いい役の声してるんだよ。」
「それで、歌ってんの?」
「そう!声優では、一番たくさん歌ってんだよ」
「そんなにCD出してたの?」
「知らないの!?ママ。
今度のはね、凄く売れてて店にはないんだって!だから。ジャーン!!貸して貰ったんだ」
「へー。見せて」
「だめ。僕が聴いてから。ママは、後でね」


深夜、真澄が眠ったから、シュウのCDを聴いてみようとプレイヤーにセットした。
再来週、生で新曲を聴かせて貰うけれど、どんな程度のものか聴いてみたかったのだ。

「なに…!!」

以前から歌唱力はあったシュウの歌声は、最近の努力や葛藤を乗り越えた精神面の進歩によるものか…その歌声は、志織の魂に響いた。
「心の奥から清らかになっていく…凄い。
宇佐さんの声は、ただのいい声の声優レベルじゃない…何か…すごい力がある…」









「うふふ。本当は、彼女よりも高い位の魂なのに、大きな役割を発願せず、近くの小さな幸せを望んだから、彼女をミカエルに導いて貰ったのに。何万年も遠回りしちゃったわね」
「女神様。あなたが、その永い経験が、人々を救う為の大切な力となるように導かれたのではないですか。(笑)どんなに素晴らしい能力であっても、人々の弱さや悲しみなどを理解出来なければ、中途半端な救いとなり不満も積み重なっていくと。
女神様も、随分と厳しい修行を彼に与えましたね」
「私と北極星の神の願いを託したのですから。
でも…思ったよりも長引かせてしまったようね。でも、あと少しよ」
「はい」


湖の湖面を見つめながらミッシェルは泣いていた。

「もう、私は必要ないわ。人々は、皆…ジュリアの声で幸せを感じているもの。私には、あんなに浄化力のある声はないもの…。でも、どんな形でもいいから、人々に幸せになって貰う事をしたい。」

突然、甘いチョコレートの香りと共に眩しい光が天空から湖に降りてきた。

「…ぁ」

紫色の大きな翼の天使は、優しい瞳をしていた。
「…天使様」
「どうしたのです。ウリエルの守護の者」
「ウリエル天使様?」
「汝は、ウリエルの導きにより、踊り、歌、文章、絵、笑顔などで人々を喜ばせ、天上界の歓喜を伝える者。楽しい心を与えウキウキする心を与える役割なり。何故泣いている」
「私は…私の歌や物語で人々は喜びを感じて下さっています。でも…人々は、私よりも一緒にいるジュリアの声に惹かれ、私よりジュリアを必要としています。私は居なくてもいいのです。何の意味も成してないのです」
天使★は、優しく微笑んだ。

「低俗な嫉妬心ではないようですね。汝は、人々を救いたい気持ちはあるが、自分には出来ないことに苦しんでいる。ジュリアなる者は、その役割を幸せに全うしているのか」
「はい」
天使は、天空を見つめた。太陽を中心にして、大きな黄金色の輪が広がった。
天使は、静かに目を伏せて小さく微笑み、そして厳しい目をしてミッシェルを見つめた。

「私の導きによる神の働きを代行する人となるか?才能を磨き、地上に新しい物を生み出す為の大天才となる為の、様々な修行だけではなく、厳しい人生の繰り返しになるが、それでも良いか」
「厳しい…修行」
「そう。穏やかな平凡で温かな人生は送れぬが、覚悟はあるのか」
「…あの。あなた様は」「我、ミカエルなり」
「!!ミカエル大天使★様!!」
「覚悟があるならば、汝にこれを授けよう」

ミカエル大天使★は、ミッシェルの髪にアネモネの花を差した。

「これは?」
「私心無欲に生き貫くならば、神通自在となる。しかし、欲望に心満たされると、狂い死にする程困窮するなり」
「…ぇ」
「それ程の覚悟があっての人類の救済の導きを致そう。」
「…ジュリアとは…」
「その者には、また別の役割がある。汝とは、別に生きるしかない」
「別に」
「いつかは、そうなるだろう」

ミッシェルは、決心してミカエル大天使★にひざまずいた。

「お導きをお願い致します」
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