□先天的ミサイル
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彼を忘れて早一週間が経とうとしていたが相変わらず更信の怠惰ぶりは治ることはなく鬼と呼ばれた土方でさえ気力を無くしていた。



そんななか相変わらず寮の縁側で昼寝と言う名のサボリをしているとそこへ六番隊隊長の武田観柳斎が隊員とともに歩いてきた。


「おお、これはこれは。更信ツヅキではないですか。お仕事中に呑気に昼寝とはいいご身分ですねぇ。」


嫌味ったらしく口を開いた武田に一目し更信はまた目を閉じた。


「いいんですかね、マフィアのボスの男娼がこんなところにいて。……ああ、これは内緒でしたか?」


「………………」


更信は閉じかけた目を開ければ上から下へと何かを見定めるように見回した。


「ああ…図星でしたか?マフィアのボスに媚を売ったかと思えば次は幕府ですか?いい面してやることえげつないですねぇ。」


「何が言いたい。」


「バラされたくなきゃ稽古につけ。負けたら僕の言う事を聞け。」


先程までの口調はどこえやらドスの効いた声で更信をどついた。
そんななか、いい事を思いついたとでも言うように口元を緩めた。

「……言えば?稽古もついてあげるよ。負けたら俺の食費1ヶ月分払ってくれるならいいよ。」


ニコと無邪気に笑った更信に余裕の笑みを浮かべた武田たちは稽古場へと向かった。







道場には人影はなく現在は更信と武田、隊員の二人である。
武田はおもむろに更信へ竹刀を投げればおおっ、とびっくりした様子で受け取り竹刀の重みに首を傾げながら軽く振った。


「(39だよな…?)」

更信は思わず手のひらでパシパシと竹刀を叩いた。

やっぱり音が違う、と苦笑いをした。四本の竹で組み立てられた竹刀には中に空洞がある作りになっているのに対して更信の持つ竹刀にはその空洞音がしなかった。

「(最後に持ったの何年前だろ、まぁこれは(重り)つけられてんな)」



「お、更信じゃねーか。稽古すんのか珍しい。」


竹刀の感覚を確かめているとそこに現れたのは土方と十番隊隊長の原田だった。

武田は嫌そうに顔おしかめたが、ああ。と声を紡いだ。

「ちょうど良かった。更信が稽古についてくれるらしくてね。審判をして欲しいんだ。僕のとこの隊員だと不平が生じてしまうかもしれないからね。」


原田は声のする方を見て眉間にシワを寄せた。原田は武田を好いていない。
他の隊員たちもそうだろうがな、と原田は心の中で思った。


「わかった。」

土方と原田は道場の隅に腰掛け行く末を見守った。


「素手でもいいの?」


「はは、竹刀が飛ばされても拾いにいくくらいは「素手でもいいの?」……ッチ、構わないよ。」


武田に目を向けることもなく竹刀を撫でながら更信は聞いた。
ふーん、と答え竹刀を構える。


「(剣道してた口か)」


土方は構えを見てそう思った。
武田はそんなことにも目をくれず軽くアップをとっていた。


「準備はいい?」


武田の質問に頭だけで肯定すると蹲踞をした。


「はじめっ!」


原田の声に両者が立ち上がるが武田は何もせずに様子を伺っていた。それに対して更信はゆっくりと竹刀を武田に振り下ろす。

当たり前のように体でよけると武田は思わずにやけた。
これなら圧勝だ、土方さんの前でいいところが見せられる。と。


しばらくその攻防が続いた。


「次は僕の番ね。」


武田は竹刀を器用に使い更信の喉元についた。それをよけると、よし。と何かを理解したように更信は呟いた。


さっきとは打って変わって逆の攻防が続き、勝負は一瞬で決まった。



武田が繰り返す付きに対して柄の部分を自らの柄に引っ掛けるとそれを自分自身に引き寄せ武田の竹刀を飛ばすと、その衝撃で前のめりになった武田の鳩尾に蹴りを入れた。
そのまま、後ろに飛ばされた腕を引き寄せ竹刀を喉元にあてがいながら大外刈りをした。


「い、いっぽん!」


原田の声と武田の荒らげた声だけが道場に響いた。
ゆっくりと起き上がった更信に起こされた武田は、はっ。と鼻で笑った。


「な、なにこんな稽古で本気になってんの?えらいね?ねぇ、土方さん。」

その言葉に土方が声を発するよりも先に更信が静かに言った。


「お前の戦う場所はここじゃない、死に場だ。」


そのまま、武田に手を出したのを見て武田は頭を傾げる。カード。とだけ言うのを見て思い出したかカードを渡す。


「うっし、原田さん土方さん。飲みいこ。俺の奢り。」







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