猫からの贈り物

□第一話
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『絶対にまた会える?』


「…そうですね、必ず。」


幼いころの記憶は


いつも頭の片隅に















名前は名無


社会人2年目のまだまだ新人ながら後輩が入り忙しい


大変だが充実した生活を送っていた


「すいません先輩…」


『んー?またやり方忘れちゃった?』


「…ごめんなさい。」


『三度目はないからね。』


くすくす笑いながら縮こまる後輩を撫で仕事を教え込む


「忘れっぽいですよね、私。」


『そうだねえ。』


一段落し昼食へ


「昔の事は覚えているんです、なぜか。」


『ああ、子供の頃とかね。』


「そう!友達だけじゃなくどんな髪型してたかまで覚えているんです。」


『些細だねえ。』


「先輩は子供の頃の記憶、どこまであります?」


穏やかに笑う名無にニコニコ聞く後輩


二人の周りだけはとても優雅な時間が過ぎていく


『…初恋の人ははっきり覚えてる。』


「わあ!どんな人なんですか?」


この先輩が好きになる人だ、とてもいい人に違いない


後輩は前のめりになって続きを促す


『私が保育園の頃、あの人はもう大人だったんだけどね。』


「子供の頃ってとにかく大人に憧れますよねー。」


『そうそう、猫に懐かれて困ってたから私が飼うーって声をかけたの。』


懐かしそうに目を細める名無


『その人ホッとしたような顔になって〔危うく一匹の猫の生涯を終わらせるところでした〕って。』


「…完全に危ない人じゃないですか。」


『そうかもね、でもなんだかとっても素敵な人でその日ずっと遊んでもらってた。』


「名無さんはもっと危機感持った方がいいですよ。」


『子供の頃の話。』


話し終えお茶を飲む名無を見つめ口を開ける


「もしかして…まだ好きなんですか。」


『…』


恋愛関係の話を名無の口から聞いたことない


それに、話している時の表情は完全に恋する乙女のようだった


『また会うって約束したの、つり目で耳が尖がってておでこに角が生えてるイケメンさんと。』


「名無さんが心配で仕方ないですよ。」


笑顔が引きつっている彼女に名無は盛大に笑ったのだった


















『ただいまー。』


玄関を開ければニャーという声


『灯ー待ってたかにゃーん。』


あの不思議なイケメンさんと一緒に出会った猫


今はもうお年寄りだ


よたよたと名無に近づいていく


『今日から新しいごはんになります。』


目の前に座る灯に自慢げに袋から取り出したのは


『じゃーん、シニア用フードー!って灯ちゃん!どこいくの!!』


関心を失ったのか寝る体制へ


『なんでなの!どうしてシニア用はすべてキャンセルなの!!』


文句を言いつついつものご飯を皿へ


猫飼いの定めである















いつも通り仕事を終え駅へ向かう途中


『…あれ?』


視界の端に懐かしい姿を見た気がした


『…』


気のせいかとまた歩き出し横断歩道へ差し掛かる


前に赤になったので一時停止


「あの猫…危なくない?」


ふと聞こえた見知らぬ声が聞こえ目を向ける


『…灯?』


なんでここに、という言葉の前に車が走ってくるのが見える


『…っ!!』


必至に走り伸ばした手は


しっかりと灯を掴んでいた

















続く
 

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