短編-ソノ1-
□窒息
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どこのケバいキャバクラの娘よりも、
どんな若作りしたオバサンよりも、
かつて渋谷に存在したヤマンバギャルよりも、
厚い厚い厚い化粧をした。
お風呂場の鏡でわたしでない私をみつめるわたし。
肌で円を描くと顔の上でみるみる生まれる黒いクレンジング。
どろどろ歪む顔にシャワーを浴びせ、3時間かけて丹念に塗りたくったモノを、たったの5分もしないうちに一気に洗い流す。
現れた素肌、
それは確かに呼吸をした。
ずっと酸素を求めていたように。
気持ちよかった。
空気の存在を、はっきり感じた。
そうなんだ。
あなたをテレビで見る度に、
『もっと早く気付けばよかった』
と、ありきたりな台詞を未練がましく呟く私。
その度に私を消していくわたし。
空気の大切さなんか、失うまで気付けっこないんだから。
『もっと早く』なんて、わたしには不可能だったんだから。
『幸せ』なんて、そんなもんなんだから。
気付く為には、無くすしかない。
愚かな、人類、わたし。
気付けた事が『幸せ』だと、私に言い聞かせるわたし。
でも、窒息してしまいそうです。