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□第三話 対立する仲間
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○ 蒼天郭

理人・音月・琉生、リビングに顔を出す。

理人「…」

伴を囲う、昂羽・充土・夕和。
皆カーペットの敷かれた柔らかい地べたに座り込み、伴の両手の握り拳に釘付けになっている。
入口に背を向けている為、理人等の登場に気付かない、唯一入口向きに腰掛けていた伴が、三人に気付く。

伴「よっ、遅かったな音月」

音月「伴!そうだ、忘れてた…」

夕和「あ、皆さんお帰りなさい」

琉生「ただいまー。みんな何やってるの?」

夕和「どっちの手に指輪が入ってるかを当てるゲームなんです」

琉生「へー」

琉生は夕和の隣に、理人と音月は一人椅子に座っていた世嗣の向かいに腰掛ける。
黙って伴の様子を見ていた理人、偉そうに腕を組むと、鼻で笑う。

理人「下らねぇ。子供騙しにマジになりやがって、ガキかお前等」

昂羽「そうゆうけど、伴の4勝目なんだぜ?」

理人「お前等がボーっとしてるからだろ」

伴「そこまで言うなら、アンタもやってみるか?あ、ちなみに今のは右ね」

昂羽「ちっきしょー!」

夕和「何でー、絶対左に入ったのに…」

琉生「俺もやるっ!音月もやろっ」

音月「うん…」

琉生に呼ばれ、充土の隣に腰を下ろす。

伴「それじゃあ行くぜ」

親指で指輪を跳ね上げ、左右に投げて躍らせる。
充土・昂羽、指輪の動きと同じ様に目が動いている。
机に肘を着きながら、横目で追っている理人。
伴、わざと右手に指輪を落とし、両拳を近付けて前に差し出す。

伴「さあ、どっちだ?」

理人「バカにしてんのか、てめぇは。右に決まってんだろ」

琉生「俺も右っ」

昂羽「俺もっ!今度は絶対右!」

夕和「音月さんは?」

音月「…」

しかめっ面で、伴の両手を凝視している音月。
充土、音月をじっと見た後、伴に首を横に振る。

伴「はははっ!正解は…」

手を開くと、指輪が左手に入っている。
してやったりに、ニッと笑う。

伴「じゃんっ」

理人「なっ…」

昂羽「何でだよぉっ!」

琉生「あれぇ?確かに右手に入ったと思ったのに」

夕和「そうなんですよね。でも開くと、何故かその逆に入ってるんですよねぇ」

伴、挑発する様に理人を見る。

伴「どうだ?」

理人「ふんっ、今のはただのまぐれだ。下らねぇ遊びにもう一度だけ付き合ってやるよ」

伴「おっ、マジになって来たな」

未だにしかめっ面の音月を見て、同じ様に倣って顔を顰める充土。
伴が再び指輪をシャッフルさせると、今度はぎんぎんに両手の動きを見ている理人。

琉生「…んー…」

目がトロンとなり、ふぅと息を漏らす。

琉生「御腹空いたぁ…」

充土「…」

琉生の言葉に反応し、静かにキッチンに向かう。
伴、指輪を左手に落とし、前に差し出す。

伴「お前に初めに選ばせてやるよ」

理人「左!」

伴、ニヤリと笑い、左手を開ける。
そこに指輪は入っていない。

伴「指輪はこっち」

右手を開くと、指輪が入っている。

理人「な、何でだっ」

世嗣「何か仕掛けがあるのか」

伴「まあな」

理人「もう一度だ!」

声を荒げ、机を叩き付ける。

昂羽「お前が一番本気じゃんか」

充土、温め直した鍋と、頭に小皿や箸を乗せた御盆を乗せ、キッチンから戻って来る。

琉生「わー、良い匂い」

手早く食事の準備をすると、鍋蓋を開く。

充土「冷めない内に」

琉生「サンキュー!」

音月「ありがとう」

夕和「そうだっ」

思い出した様に立ち上がり、リビングを後にする。
昂羽、卑しそうに鍋をじーっと覗き込む。

昂羽「美味そー。なあ充土、俺も食って良い?」

充土「(頷く)」

世嗣「昂羽、食い過ぎだ」

いつの間にか、整えられた食事の準備、それは昂羽の前にも。

昂羽「おぉっ!見抜かれてる」

充土「…」

理人の後方に移動する。

充土「今日のは自信作です、理人さんのお好きな鳥つみれ入りです」

理人「もう一回だ!」

伴「お前いい加減にしろよー、俺もう飽きたよー」

理人「いいから続けろ!」

充土「…」

琉生「んっ!すっげー美味い。美味しいよ、充土」

音月「うん美味しー」

昂羽「うまい!さっきも食ったけど」

充土「ありがとうございます…また、作ります」

バタバタと足音が響き、リビングに戻って来る夕和。

夕和「あの、音月さん、これ」

差し出された本を、「ん?」という顔で受け取る音月。

音月「これ…夕和が見つけて来てくれたの?」

夕和「はい。勝手に買って来ちゃったんですけど、良かったですか?」

音月「ありがとう!すごい嬉しい」

夕和「えへへ、良かった」

理人、椅子から下り、伴と地べたで対峙する。

理人「くそっ、何なんだてめぇ!」

伴「お前逆ギレすんなよな」

昂羽「お前魔法でも使ってんじゃねぇのー?」

伴「ははっ、魔法か。否定は出来ねーな」

音月「えっ?」

一瞬で、会話が止まるリビング。

理人「どうゆう事だ?」

伴「…」

音月等の微妙な反応、冷静に観察する伴。

伴「‥それを言っちまうと、お前の負けだぜ?」

理人「てめぇっ!」

昂羽「はははっ、キレた!雷親父!」

楽しそうに笑う昂羽に理人の一喝、殴られる。
理人と昂羽の喧嘩、それを必死で止めようとする夕和だが、皆どこか楽しげで全く危機感はない。
それが日常的である事を物語る様な、世嗣の理人達見る視線、とても微笑ましげ。
その光景に自然と零れる、伴の心からの笑顔、まさか今日会ったばかりとは思えないほど溶け込んでいる。
だが、理人達の和気藹々な様子を余所に、一人不安げな表情で伴を見つめている音月。
琉生、音月を横目で見る。

琉生「別に良いんじゃない?」

音月「え?」

琉生「多分、悪い奴じゃないよ。あの理人が、珍しく心を開いてるわけだし」

音月「…うん」

琉生の言葉に安堵、仄かに笑みを浮かべ、食事を続ける。
 
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