Story...

□第七話 空族の証
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○ 西の森

歩みを止める夕和。

夕和「…やっぱり、伴さんを待った方が良かったかな…」

髪に巻いたヘアバンドをぎゅっと掴む。





夕和の回想。

蒼天郭の周辺。
理人を中心に、音月・琉生・世嗣・昂羽・充土が集まっている。
少し離れた位置に、ポツンと立ち尽している夕和。

夕和「…」

理人、バンダナを手の平に乗せる。

理人「これが俺達、空族の証だ」

一同、バンダナを見据える。





昂羽、バンダナを首から掛け、リボン形に結ぶが、縦になってしまっている。

昂羽「なんだ、ただの布切れじゃん」

音月「似合ってるよ、昂羽」

音月、バンダナを腰に巻く。

昂羽「へっ?そうかぁっ」

ぱぁっと嬉しそうに微笑む昂羽。

音月「でもだいぶ曲がってる」

昂羽のリボンを結び直す音月。
世嗣、口を使って、器用に右腕に巻き付ける。
夕和、各々の様子を、ただ傍観している。
琉生、理人から自分のバンダナを受け取り、夕和を一瞥する。

琉生「理人、もう一本ちょうだい」

駆け寄り、夕和にバンダナを差し出す。

琉生「はいこれ、君の分だよ」

夕和「…」

恐る恐る受け取る夕和。

琉生「俺はどこに付けよっかなー」

昂羽「でもさー、何でこの色なんだよ?」

昂羽、綺麗にリボン結びされたバンダナの、両端を持ちながら言う。
昂羽を睨む理人。

理人「お前、俺の選択にケチ付けんのか?」

昂羽「だってさー、何か黒だけど黒じゃない、かと言って紺でもないし紫でもないみたいな。なあ世嗣?」

世嗣「俺にふるな」

理人「文句があるなら着けるなっ!」

昂羽、口を窄め、眉間に皺を寄せる。
琉生、バンダナを広げ、頭に掛ける。
その様子を興味深そうに見据える充土。

充土「…」

しばらく自分のバンダナを見つめ、自由にさせていた長髪を一本にくくる。

琉生「あっ!充土も頭にしたの?」

充土、コクンと頷く。
琉生、髪に掛けたバンダナを、襟足の部分でぎゅっと縛る。

琉生「見て見てっ!俺も」

充土、大きく頷く。
琉生、「へへっ。」と、嬉しそうに微笑む。 

夕和「…」

ボーッと俯いたままの夕和。
それを見つめる音月、夕和に歩み寄る。
理人、音月よりも早く、夕和にスタスタと近付いて行く。

音月「えっ…」

驚き、理人を凝視する音月。
夕和の視点、地面に影が現れ、顔を上げる。
目の前に立っている理人に驚き、その際バンダナを地面に落としてしまう。

夕和「…」

理人「おい、お前も俺の選んだ色にケチ付ける気か?」

怯える様に、何度も首を横に振る夕和。
音月、急いで理人の元に駆け寄る。

音月「理人、その子しゃべれないんだから」

理人「…」

理人、夕和の頭をガシッと掴む。

昂羽「げっ!?」

唖然とする一同。
理人、自分の分のバンダナを、夕和の髪に無理矢理巻き付ける。
パニック状態で、されるがままの夕和。

音月「ちょっと理人!」

理人、ようやく夕和を解放する。
その拍子に、地面にストンと座り込む夕和。
音月、夕和に駆け寄る。

音月「大丈夫?あっ…」

夕和「…」

夕和が探るように、頭に手を当てると、バンダナがヘアバンドの様に巻かれている。

音月「可愛い、かも」

夕和「…」

夕和、理人を見上げる。

理人「ふんっ、似合ってんじゃねぇか。それなら文句ねぇだろ?」

首を傾げ、夕和の顔を覗き込む琉生。

琉生「本当だ。可愛いじゃん!」

夕和、照れた様に俯く。

夕和「…あ、ありが、と…」

消え入りそうな言葉を発する。

音月「あなた、声…」

夕和「あっ…」

自分でも驚いた様に、思わず手を口元に当てる。

理人「…」

理人、夕和に背を向ける。

夕和「…あっ…あのっ…」

ゆっくりと振り返る。

理人「何だ?」

夕和「…好きです」

理人「…」

夕和「この色…」

理人「…」

夕和の落としたバンダナを拾いあげる理人。

理人「当然だ」

そのバンダナを首に巻き、その場を去って行く。
夕和、理人の後姿をじっと見つめる。
 




回想終わり。

夕和「…」
俯いたまま立ち尽くす。





駆け回りながら、前方に夕和を発見する伴。

伴「夕和ちゃん!」

夕和「(振り返り)伴さん!」

伴、少しだけ息を切らせながら、夕和に駆け寄る。

伴「やっぱり先に行っちゃってたんだ」

夕和「ごめんなさい。何か、居ても立ってもいられなくて…」

夏要の声「まっ、待ってっ…」

伴・夕和、声の方に同時に振り返る。
消え入りそうな言葉を発し、足をよたつかせながら、伴達に歩み寄る夏要。
近くの木に思わず手を掛ける。

夏要「伴…はや、早過ぎっ…」

伴「だらしねぇなぁ、このくらいで」

夕和、夏要を不安げに見つめる。

夏要「この子が、空族の?」

伴「あぁ」

伴の袖口をぎゅっと掴み、訴え掛ける様に伴を見る夕和。

伴「夕和ちゃん、コイツが俺をレミリアに呼んだ夏要。運動神経ゼロだから、てんで敵じゃないよ」

夏要「おいっ!」

夕和「…」

袖口を放し、手を前に揃える。

夕和「空族の夕和と言います」

夏要、呼吸も徐々に落ち着き、辛うじて直立する。

夏要「夏要です。よろしくお願いします」

伴「ここまで来たって事は、もう覚悟は決めたんだね?」

夕和「…はい」

夏要、伴と夕和を不安げに見つめる。

夏要「ちょっと、何する気?」

伴「夏要、これから俺達、地族の基地に向かうぜ」

夏要「…えぇっ!?ま、ままままま、ままさか…の、ののの、のの乗り込むっ?」

伴、夏要の額をこつんと叩く。

伴「バカちげぇよ。夕和ちゃんは話し合おうとしてるの」

夏要「話し合う?」

夕和「私は空族のみんなが、万が一犠牲になる所を見たくないんです」

夏要「…」

夏要、夕和をまじまじと見つめる。

夏要「なんか僕の想像じゃ、空族ってもっと凶暴なのかと思ってた」

伴「凶暴なのもいるぜ?自分が下手(したて)になった途端、噛み付いて来る奴とかな」

夏要「えぇっ!」

伴・夕和、同時にふっと笑い出す。
唖然とする夏要。
 
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