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□第十話 紅い瞳
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○ 西の森

地族の基地から離れようと、必死で走る夕和。

夕和「ハァ、ハァ…」

桐友、夕和を追いながら、前方に右手を翳す。

桐友「土術!」

周辺の小石がふわりと浮かび上がり、夕和に向かって飛んでいく。
夕和、咄嗟に頭を抱えてしゃがみ込むと、小石は夕和の頭上をすり抜け、目の前でポトリと落ちる。
顔を上げ、呼吸を整えながら、自分を狙った小石を見遣る。
その間も、ゆっくりと夕和の背後に歩み寄る桐友。

桐友「脱走とは、良い度胸じゃないか。さすがは空族と言うべきかな」

夕和「…くっ」

振り返り様、忍ばせていた針を、桐友目掛け飛ばす夕和。
桐友、顔色一つ変えずに、針を翳した右手で受け止める。
右手には大量の石が集まり、それによって針が跳ね返される。
夕和、その隙に立ち上がり、再び走り出そうとする。

桐友「…」

手の平に力を込めると、張り付いていた石達が一瞬で粉々になる。

桐友「水術!」

がくんと、地面に引っ張られる様な感覚に陥る夕和。

夕和「えっ!?」

突然足が地面から離れなくなり、必死で抵抗する。

桐友「底なし沼だよ。君はもう、僕からは逃れられない」

夕和「そんなっ…」

震える声でもがくが、びくともしない。
無表情、しばらく傍観している桐友。

桐友「…んっ?」

次の瞬間、底なし沼が一瞬で凍り付く。

夕和「えっ!」

夕和が、凍った地面を目を見開いて見つめていると、数秒で氷が音を立てて砕ける。

夕和「きゃあっ!」

砕ける直前に、背後に逃れる桐友。
その瞬間、木の影から飛び出し、夕和を抱き上げ、向かい側の木の下に避難する伴。

夕和「伴さん!」

伴「夕和ちゃんっ…」

瞳を潤ませ、伴の首に抱き付く。
伴、安堵の表情を浮かべる。

桐友「…」

すべてを悟り、自然と視線は上へ。
影が現れ、上空から地上を見下ろしている音月が姿を現す。

音月「…」

沈黙の中、睨み合う。
伴、只ならぬ雰囲気に、思わず二人を凝視する。
夕和、恐る恐る顔を上げる。

夕和「音月さんっ…」

桐友「…」

音月「久しぶりね、坊や」

温度の無い笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開く音月。
桐友、目つきを尖らせる。

桐友「音月…」

三者ようやく追い付き、音月の姿を見て立ち止まる。

那央「音月っ」

惠麻「飛んでる!って事は空族?」

一人興奮しながら音月を見上げる惠麻。
その様子を視界に捉え、驚く伴。

伴「惠麻っ?」

惠麻「伴っ!えっ、何やってんの?」

伴「お前…」

音月「ウチの子が世話になったわね」

桐友「あぁ。でも迎えは頼んでなかったと思うけど」

音月「えぇ。あなた達にはとても預けていられないと思って、取り返しに来たのよ」

桐友「へぇ。君一人で?」

那央、音月に向けて弓を構える。
避けようとはせず、弓の先を見つめている音月。

音月「…」

那央、矢を放つ。

伴「音月っ!」

飛んで来る矢に向かって、躊躇せずに右手を翳す。
瞬時に凍りついた右手の平がシールドになり、矢は刺さらず、跳ね返る様に地面に落ちる。

伴「なっ…」

驚愕する伴。
そのまま右手を那央に向け、那央の手首の緋玉ごと、弓を氷付けにする。

那央「くっ…緋玉がっ」

表情を歪ませる那央。

伴「氷?」

惠麻、音月を凝視する。

惠麻「何あの子。すごっ」

弾斗「野郎!」

弾斗、翅脚を(脚を翅の様に)使って跳び上がり、音月の左サイドから攻撃を仕掛ける。

音月「…」

ふわりと移動し、弾斗の背後に回り込む。

那央「後ろよ!」

弾斗、すぐに振り返り、音月を標的に捉える。
それよりも早く、弾斗の右腕にそっと触れる。

音月「絶対零度」

音月が唱えると、弾斗の右腕が一瞬で氷付けになる。

弾斗「ぐあーっ!」

弾斗、苦痛で顔を歪ませ、そのまま地上に落下する。

惠麻「弾斗!大丈夫?」

駆け寄る惠麻。
腕を押さえ、痛みにピクピクと体を震わせている弾斗。
指輪を擦り、熱の力で凍った腕を溶かしていく惠麻。

弾斗「わりぃな、助かった」

音月「…」

惠麻を興味深そうに見つめる音月。
桐友、地面に右手を押し付ける様に置く。

桐友「森羅万象第四奥義水術、術法…」

羽織っているコートが、ふわりと宙を舞う。

桐友「蒼竜!」

ゴゴゴッと地鳴りの様な音と共に、地底から大量の水流が湧き上がり、音月の姿を飲み込む。

夕和「音月さんっ!」

惠麻「すごっ!滝が湧き上がってる!」

緊迫した沈黙が流れ、蒼竜に目を見張る桐友。
次の瞬間、蒼竜から大量の雪破片が飛び出し、桐友を攻撃する。
桐友、すぐに土術を使い、土の壁で防御を確保する。

惠麻「桐友!」

蒼竜が消え、中から氷の壁に守られた音月が現れる。

伴「…」

目の前で起こっている事に、ただ圧倒される伴。

桐友「上空からの狙い打ちじゃ、こちらが圧倒的に不利だっ」

次第に土の壁が崩れ、桐友に焦りの表情が見え始める。

桐友「くそっ…」

惠麻「みんなっ…」

指輪に手を掛ける惠麻。

伴「おい、惠麻っ!」

音月「…」

背後からの気配、何者かの威嚇に反応、振り返る。
後方を睨む様に見つめていると、突然、音月目掛けて火の玉が飛んで来る。

音月「んっ…」

間一髪で地上に避け、火の玉は空中でぼぉっと音を立てて爆発する。

伴「なっ!…お、前…?」

惠麻「えっ?違うよ!アタシじゃない…」

音月「…」
 
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