Story...

□第十二話 来憂・音月・穂華
1ページ/4ページ

○ 宮殿

中央に、太陽と月を象ったオブジェが設置され、色取り取りの花が咲き乱れている。

穂華「はぁ…」

穂華、オブジェの先端に腰を下ろし、空を見上げて寛いでいる。

美去「…」

美去、庭の入り口から、穂華をじっと見つめる。

穂華「あら、どうかしたの?」

美去「穂華様」

穂華「退屈していた所なのよ。釈良がどうしてもゆっくりしろって」

美去「私でよろしければ、御話相手ぐらいには」

穂華「良かった」

屈託なく笑う。

穂華「美去がこの国に来て、もう随分経つわね」

美去、穂華の隣に腰掛ける。

美去「もうすぐ、6年になります」

穂華「そう…早いわね、時が経つのは。この10年は本当にあっと言う間だったわ。でも、何があったかは、あまり思い出せないの」

美去の視線、悲しげに俯く穂華の横顔。

美去「…穂華様」

穂華「ん?」

美去「穂華様の…生い立ちについて、御聞きしてもよろしいでしょうか」

穂華「…突然、どうしたの?」

美去「大変な無礼を働いている事は承知しております。ですが…」

穂華「…ううん。むしろ今まで、話さないでいてごめんなさい。でも隠していたわけじゃないの。何となく…」

美去「…」

目を細め、真っ直ぐ前を見つめる穂華。

穂華「私の本当の両親は…魔族に、殺されたの」

表情が険しくなる美去。



・ 

玉座の間。
佇む釈良、その背中越しに夏要。

釈良「王族?」

夏要「はい。実は、僕が先生から預かった資料の中に、先代の王族について書かれている一節があって、少し気になったので…」

釈良、夏要を正面に捉える。

釈良「君は一体、何が知りたいんだ?」

夏要「えっ…と、一言では言えないんですけど」

釈良、再び夏要に背を向ける。

釈良「魔力の開放について、美去とこそこそ調べている様だが?」

夏要「えっ!知ってたんですか?」

釈良「当たり前だ」

夏要「…なら、単刀直入に言いますけど…釈良さんは、魔力の開放について、何か重要な秘密を知っているんじゃないですか?」

釈良「…」

夏要「そりゃあ、魔力を使えば、穂華様への国民の反応が冷たくなる事は納得出来ます。けど…」

夏要の言葉を遮る。

釈良「そうではない」

夏要「えっ?」

釈良「私が真に気掛かりなのは、穂華様の事だけじゃない」

夏要「じゃあ、何故貴方はそこまで、魔力の開放を拒むんですか?」

釈良「…」

夏要「お願いします!話して下さい!こうして居る間にも、惠麻や伴は、すでに争いに巻き込まれているんです!」

夏要に向き直し、しばし沈黙が流れる。

釈良「お前達が見つけた守翁の部屋…あれは先代が用意したフェイクだ」

夏要「フェイク?」

釈良「本当の研究室は、この玉座の間にある」

夏要「…えっ!ど、どこに?」

夏要、興奮した様子で、左右に首を向ける。
釈良、玉座に歩み寄り、裏の石版の配列をずらしていく。
緊張の面持ちで、立ち尽している夏要。

するとゴゴゴッという音が響き渡り、玉座の背後に扉が現れる。

夏要「これが、先生の?」

釈良「守翁の研究室だ」

息を呑む夏要。





守翁の研究室。
高い本棚と机が一つだけのシンプルな部屋。
ライトが設置されているが、壊れている。
釈良、火の灯されたランプを机に置き、部屋の中を照らす。
足を踏み入れる夏要。

夏要「はーぁ…」

思わず感嘆の声を漏らしながら、室内を見渡す。
釈良、本棚に触れる。

釈良「ここにあるものは主に、レミリア襲撃事件の詳細を記した文献だ」

ハッとして、釈良に振り返る夏要。

夏要「やっぱり、二つの魔力と、何か関係あるんですか?」

釈良「…」
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ